中国人を東大・京大に多数送る「驚異の学校」 京都にある日本語学校の凄まじい合格率

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関西語言学院の学費は年間で約74万円。ほかに寮費、食費などがかかるが、「ほかの日本語学校とは全然違う。関西語言に通えば、日本の一流大学に入学できる」と夢見る学生が押し寄せている。

16年3月の合格実績は、有名大学では、東京大学12人、京都大学26人、大阪大学8人、名古屋大学25人、東北大学10人、東京工業大学24人、私立大学では早稲田大学8人、慶應義塾大学17人など。単年度で約600人が現役で日本の大学への合格を果たすという驚異の数字を叩き出している。

実績がモノをいうのか、まだ来日してもいない東北育才の在学中から、日本の複数の財団が優秀な高校生に奨学金まで出し、“ツバをつけている”というから驚きだ。私も取材の際、東大や早稲田など、日本の有名校の教授の前で東北育才の名前を出してみると、必ずといっていいほど「あそこからきた学生は優秀ですね」という声が聞こえてきた。

そんな評判が評判を呼び、毎年秋になると、同学院には、冒頭で書いたように有名大学の教授や職員らが学生募集の“勧誘”に訪れるという。「わざわざ京都の日本語学校にまで大学の説明会に来てくれるので、とてもありがたいです。日本では深刻な少子化や理系離れが叫ばれていますが、優秀な学生の確保に、大学の先生方も一生懸命なのだな、と感じます。留学生たちも大学のきれいなパンフレットなどに目を通し、どこの大学に進学しようか、興味津々の様子です」(副校長の大川浩美氏)

少子化の影響で、全国の大学どこでも優秀な日本人学生の獲得が難しくなってきた現在、各大学が日本語学校にアプローチするという動きがあることを、私は初めて知ったが、同学院の流れを聞いてみれば、さもありなんと納得した。

松尾氏の切なる願い

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最後にひとつ、取材で感動したエピソードを紹介したい。取材が一通り終わり、雑談をしていたときに、松尾氏が自分の夢を語ってくれた。

それは第2、第3の周恩来を育てることだ。周恩来といえば、中国建国の父、毛沢東の右腕として長年国務院総理をつとめた人物。中国で最も尊敬される政治家であり、日本でも「日中国交正常化」の立役者の一人として、よく知られている。

だが、その周恩来も日本留学していたことは、中国に詳しい人以外にはあまり知られていないのではないだろうか。短期間だったが明治大学に在籍していたことがあり、東京で生活していた。それによって彼の日本への理解が深まり、日中関係によい影響を及ぼしたともいわれている。

「私が作った東北育才外国語学校の姉妹校である東北育才学校は、実は、周恩来元総理も一時期学んだことがある学校なんです。そんなご縁もありますが、日本にやってきた留学生たちが日本の大学で学び、いつか周元総理のように日中の将来に貢献できるようになったらいいですね。若いうちに日本を見て、素直な心で日本社会を見れば、きっと日本が好きになります。勉強だけでなく、私はこの日本語学校で、そんな学生たちを育てていきたいと思っています」

長年、京都を拠点に中国人留学生の教育に力を注いできた松尾氏の切なる願いだ。

中島 恵 ジャーナリスト

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なかじま けい / Kei Nakajima

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経て、フリ―に。著書に『なぜ中国人は財布を持たないのか』『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(すべて日本経済新聞出版社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『「爆買い後」、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)などがある。

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