「お疲れさま」を日本人が多用する本当の意味 そこには相手を思いやる精神がある

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この中でも、特に私は「調和のとれていること」という意味に注目したいと思います。物事や性質の異なるものが、不自然な形ではなくいっしょに溶け合っている様子が想像できますし、これは日常生活の至るところで見られると思います。例えば、田園風景の中に流れる川でゆっくり回る水車、お寺の境内を彩る紅葉など、まさに調和のとれている様子なのではないでしょうか。

しかし、これを人と人との関係の中で考えてみましょう。人間関係における調和とは一体どのようなことでしょうか? 物事も人間も基本的には性質の異なるものであるという点は共通しています。しかし、人間の心ほど変化が著しく不安定なものはありません。そういう意味では非常に調和が難しいとも言えます。ここに物事と人間の大きな違いがあります。

相手への「思いやり」の精神の現れ

ここで大事なのが、「相手を思いやる気持ち」です。相手を気遣いながら自分の我を抑制することが、人間関係における調和です。これが自分ひとりだけの一方通行であれば、ただ損をしてしまうことになってしまいますが、相手も同じように気を遣ってくれているからこそ、喧嘩などをすることなく、コミュニケーションが取れるのです。ひいては、これが自然と成り立っているのが日本文化なのです。

これに通ずる仏教用語に「和顔愛語」(わげんあいご)というものがあります。これは誰もができる仏教の実践行のひとつで、相手に対して和やかな顔で、愛のある優しい言葉をかけることを意味します。ひと言で言うなら、「思いやり」ということになるでしょう。

何も言わなくてもいいところで、「お疲れさま」だけではなく、何か言葉を口にしたり、会釈などの行動を取ってしまったりするのは、実は相手を気遣い、コミュニケーションを大事にしようとする仏教の思想にも通ずる、相手への思いやりの精神の現れなのです。

そう考えると、改めて日本文化の「和」の温かさを感じませんか?

しかし、「お疲れさま」という日本語は、あくまでの苦労のねぎらいの言葉です。私自身も思いやりの精神を大切にしながら、朝・昼・晩という時期やその場の状況に相応する「挨拶」を心がけていきたいと思います。

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大來 尚順 浄土真宗本願寺派僧侶

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おおぎ しょうじゅん / Shoujun Oogi

1982年、山口県生まれ。浄土真宗本願寺派僧侶でありながら、通訳や翻訳も手掛ける。龍谷大学卒業後に単身渡米。カリフォルニア州バークレーのGraduate Theological Union/Institute of Buddhist Studies(米国仏教大学院)に進学し修士課程を修了。その後、同国ハーバード大学神学部研究員を経て帰国。帰国後は東京と山口県の自坊(超勝寺)を行き来しながら、僧侶として以外にも通訳・翻訳、執筆・講演などの活動を通じて、国内外への仏教伝道活動を実施。翻訳著書も多数出版する傍ら、初級英語で仏教用語をやさしく解説した「英語でブッダ」(扶桑社)も非常に好評のほか、「お坊さんバラエティ ぶっちゃけ寺」(テレビ朝日系列)にも出演。
 

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