(第5回)株式市場が「エコ」に変わる?~投資が温暖化を止める
末吉竹二郎
●お金が「環境」に向かい始めた
「地球の未来は皆さんの手の内にあることをご存じでしょうか。皆さんの判断一つで将来のCO2(二酸化炭素)濃度が決まるのです」。これは2003年に国連で行われた「気候変動に関する機関投資家サミット」での、アナン事務総長(当時)が、世界の年金基金や投資銀行のトップに向かって語った言葉です。投資の意義に着目して、国連は環境問題で、年金基金や投資銀行などの機関投資家との結びつきを強めています。私が関係する国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP・FI)という組織では、前回紹介した「責任投資原則」を機関投資家と結んでいます。この原則は投融資活動で環境への配慮を行うなどの内容です。
2008年2月時点で世界の金融機関300が署名しており、その運用資産は約13兆円に達しました。世界の株式市場の時価総額の約2割を占めています。世界の機関投資家が環境問題に向き合い、そして中心課題である地球温暖化を止めるために動き始めているのです。
アナンさんの言葉に、私は付け加えたい事実があります。機関投資家の運用するお金は、実は私たち個人投資家が預けたものが大半です。「株式に私は関係がない」と思う人もいるでしょう。ですが私たちは密接に金融市場と関係しています。私たちの公的年金、企業年金、保険などでは株式・債券市場で運用されているのです。
株を買うことは、資産を殖やすという意味を持つだけではありません。大切なお金を特定の企業に託すという意味があります。そうした関係を持った企業には、大量にCO2や温室効果ガスを排出して温暖化を加速させ、地球の未来を壊してほしくはない。環境に役立ち、温暖化を止める企業に頑張ってほしい。こう思うのは当然です。
以前からあった社会的責任投資(SRI)という考えが、今の世界で一段と広がっています。環境に配慮したり、社会的な責任を果たしたりする企業に、投資をしようということです。07年にはSRIの考えに基づく投資がアメリカでは約270兆円、欧州では約150兆円となり、株式の時価総額の1割前後の資金がSRIの考えに基づいて投資されました。残念ながら、日本のSRI投資は9000億円にすぎません。
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