(第5回)株式市場が「エコ」に変わる?~投資が温暖化を止める

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●お金に投資家の意思を反映させる

 SRIに基づく投資は、長い目でみると株式市場全体の平均よりも、パフォーマンスがよくなる傾向があります。それは当然でしょう。まじめにビジネスを続け、顧客に加えて取引先や地域社会など多くの関係者とよい関係を続ける企業は、質のよい利益を長い期間にわたって得られるからです。
 今、投資家は以前にも増して「持続可能性」という言葉に注目しています。温暖化の進行によって、エネルギーを大量に使い、化石燃料を燃やしてCO2を排出するこれまでのビジネスが続かない状況が生まれています。温暖化とSRIが結びつき、再生可能エネルギーなど温暖化防止に役立つビジネスにお金が流れ込んでいます。

 私は証券界の資産運用会社で働いていた1999年に、エコファンドの販売にかかわりました。環境に配慮した企業の株を中心に購入する日本初の投資信託だったのですが、これが予想を上回り1400億円も売れました。中でも、若い人や女性など、これまで投資になじみのなかった人々が「環境に貢献する」という事実に注目して購入しました。投資家の意識の高さに、当時深い感銘を受けたのです。
 日本の個人金融資産は1500兆円に達します。このお金に、「環境を守る」「温暖化を止める」という個人の意思が反映され、そして運用されれば、日本と世界が大きく変わるでしょう。エコファンドの例を考えれば、「環境に役立つ投資をしたい」というニーズが着実にあります。

 ビジネスパーソンには、こうした投資の潮流を念頭に、日々のビジネスに向き合っていただきたいのです。これまで、「もうけ先」を求めて流れたお金が「もうけ方」にも注目して動いています。それぞれのビジネスでも、パートナーとなる企業を選ぶ際にも、資金調達や株価の維持などの「ファイナンス力」が、その先行きを左右します。環境に配慮し、温暖化対策を行う企業が、その力を増していきます。
 その投資家の皆さんにも訴えたいのです。意志を持ったお金に基づく投資が、企業を応援し、地球を救うのです。投資家の行動が、株式市場を通じて企業を選別しはじめました。投資が温暖化問題を解決に導く。こうした世界の流れに、私たちもぜひ参加し、その流れをより大きなものにしようではありませんか。

末吉竹二郎(すえよし・たけじろう)
国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP・FI)特別顧問。日本カーボンオフセット代表理事。1945年1月、鹿児島県生まれ。
東京大学経済学部卒業後、三菱銀行入行。ニューヨーク支店長、同行取締役、東京三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取、日興アセットマネジメント副社長などを歴任。日興アセット時代にUNEP・FIの運営委員会のメンバーに就任したのをきっかけに、この運動の支援に乗り出した。企業の社外取締役や社外監査役を務めるかたわら、環境問題や企業の社会的責任活動について各種審議会、講演、テレビなどを通じて啓蒙に努めている。
著書に『日本新生』(北星堂)、『カーボンリスク』(北星堂、共著)、『有害連鎖』(幻冬舎)がある。
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