(第5回)崩壊的革新

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組織のコンバージェンス

■ コミュニティによる崩壊
 2006年には、世界の企業のR&D費用は1兆ドルに達し、一企業単独では対処できない規模になり、企業間のR&Dのコラボレーションも進みます(TMT Trends Predictions, 2006 A Focus on technology, DTT
 たとえば、液晶の要素技術には、バックライト、液晶フィルター、アクティブ素子アレイなどの要素技術からなり、こうした各社の要素技術をコンバージェンスするプロデュース力こそが企業の技術力となります。また、R&Dのコラボレーションのひとつの形として産学連携がありますが、この世界にもコミュニティが存在しており、TMT業界全体を活性化してきました。
  また、従来のような技術を排他的に占有するアプローチがこわれ、技術を共有化する一種のコミュニティが生まれると思われます。たとえば、ERPのようなソフトウェアですら、オープンソース化されていき(TMT Trends Predictions, 2006 Focus on technology, DTT)、そのコミュニティが誕生して、こうした知的財産の新しいバリュエーションの手法も開発されると思われます。
 マーケティングコストも急増し、そのコストを分散するためにもクロスプロモーションが例外的な手法ではなく、主要な手法になるでしょう。たとえば、従来は、地上波をベースに流していた番組も、さまざまなプラットフォームで流れるようになり、衛星放送やインターネットを使って、収益をあげながらプロモーションを進めることも普通になりました。この結果、さまざまなメディアやチャネルを使ってコンテンツが流通するようになります。このようなマーケティングにおいても、一種のコミュニティが生まれています。
 ターゲットとなる顧客層も囲い込みの時代から、コミュニティの育成の時代に変わります。たとえば、仮想移動体通信事業者(MVNO: Mobile Virtual Network Operator)のようなコンバージェンス型のサービスを提供する事業者も、ブログを使ったコミュニティを使うようになっていくかもしれません。
 こうした組織のコンバージェンスによるTMT業界の崩壊的革新は、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズと精神科医フェリックス・ガタリが、その共著「千のプラトー」で展開したリゾーム(地下茎)と呼ばれる概念が実現したものと言われています。ドゥルーズは、階層型の社会ではなくネットワーク型社会の優位性を強調し、ネットワークにアクセスできることを尊重します。前世紀末にはインターネット社会そのものが、リゾームを実現するものとして話題になったことがありますが、ドゥルーズらが、「千のプラトー」に先立つ著書「アンチ・オイディプス」で、人間の欲望を次々に刺激する製品やサービスの多様化を批判している点は、皮肉なことだと思います。

■ TMT業界の崩壊的革新
 デジタル技術と通信のコンバージェンスは、メディアの世界にも大きな変革をもたらし、従来の業種を超えたコンバージェンスが進みました。この結果、TMT業界の垣根が融解し、業界を超えて同じ顧客をターゲットとした競争が始まり、他業種の大企業も脅威となりました。また、TMT業界の垣根を越えたアライアンスも始まり、こうしたアライアンスもTMT企業にとって脅威となりました。こうした動向は、TMT業界のパワーバランスを変革し、TMT業界の崩壊的革新を生み出します。これこそ、組織のコンバージェンスが生み出す組織の崩壊的革新です。

製品やサービスのコンバージェンス

■ ニッチ市場からの崩壊
 TMT業界では、R&Dコストやマーケティングコストなどが巨額となったため、M&AによるTMT企業の巨大化によるTMT業界の崩壊的革新も進むでしょう(Thought Leadership 未来に備えよ 敵を知れ、監査法人トーマツ)。一方で、ニッチ市場で圧倒的なシェアを誇っている企業もTMT業界に脅威を与え、崩壊的革新を進めます(Be Prepared, DTT)。既存のTMT企業は、競争に打ち勝つために、顧客が求める以上の性能をもった製品やサービスを開発し、販売します。こうした市場での競争は、実は均衡状態にあり、崩壊的革新ではありません。
 一般的に、ニッチ市場で生きようとするTMT企業は、この過剰品質な製品やサービスの間隙を狙った製品を開発し、販売します。こうした企業がニッチ市場に「足場」を得ると、段階的に製品やサービスの品質を改善し、その市場で圧倒的なシェアを得るようになることがあります(Thought Leadership 崩壊的革新 百年目の嵐、監査法人トーマツ)。こうした企業が、より大きな市場に進出したとき、既存の企業が提供していた製品やサービスを崩壊させる可能性があります。
 また、DTTは、米国のメディア業界と討議した結果をまとめたレポートにおいて、今後、メディア業界においてマスを対象にしたマーケティングが機能しなくなるため、いくつもの細分化された市場をターゲットとするマーケティングや広告手法の開発の必要性を強調し、流通業でのノウハウが生かせる可能性を示唆しています(Televison Networks in the 21st Century, DTT)。メディア業界や広告市場でも崩壊的革新を生み出そうとしていると言えるかもしれません。

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