(第5回)崩壊的革新

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池末成明

はじめに
 今後5年間の間に、TMT業界でコンバージェンスによる大規模な崩壊的革新(disruption)が起ころうとしています。私たちは崩壊的革新を回避することはできませんが、制御は可能で、崩壊的革新の脅威をチャンスに転じさせることさえできます。崩壊的革新は、製品やサービスのコンバージェンスの革新だけでなく、組織のコンバージェンスの結果生じる産業構造の革新でも生じます。デロイトトウシュトーマツ(以下、DTT)は、崩壊的革新をテーマにしたワールドワイドなコンファレンスも主催しており、海外では話題となっています。

安定的革新から崩壊的革新へ
 革新には安定的革新と崩壊的革新があります。安定的革新は既存の価値の漸次的な改善ですが、崩壊的革新は既存の価値を新しい価値に入れ替えてしまいます。崩壊的革新は、5年から10年ごとに発生しますが、25年から30年ごとにも大きな崩壊的革新が発生します。
 たとえば、1964年にある画期的な汎用コンピュータが誕生しましたが、30年後の1984年頃、汎用コンピュータが成熟期を迎えたとき、パソコンが法人市場でも普及し始めました。パソコンの大規模な崩壊的革新の可能性を確信した主要なテクノロジー企業は、現在のIT社会をほぼ正確に予測した上で、崩壊的革新の制御を始めました。このように崩壊的革新は、皮肉にも、その技術が成熟期に入り、その動向が予測可能な状況になると始まります(Be Prepared, DTT)。パソコンがビジネスに利用できるという認識が始まった1980年から30年後の2010年、この5年の間に、パソコンやサーバー、そのソフトウェアを作り続けてきたテクノロジー業界に大きな異変がおきると思われます。あるコンピュータ会社はパソコン事業を売却しましたが、これこそ崩壊的革新の制御だと気づいた業界関係者も少なくありません。
 モバイル通信も1980年頃に登場しましたが、その30年後の2010年にブロードバンドによるモバイル通信が成熟期に入ると思われます。これに向かって、2005年より、モバイル通信市場で競争が激化しており崩壊的革新が始まっています(図1)。
 しかし、本当の大きな崩壊的革新は、モバイル通信であれ、パソコンの世界であれ、2010年以降、目に見える形で現れると思われます。その基本的な芽は、すでに市場に登場しており、その崩壊的革新の制御が生き残りをかけたTMT企業に求められていることだと思います。

プラットフォームのコンバージェンス

 ブロードバンド技術やパソコンを動かす基本ソフトウェアなどのプラットフォームのコンバージェンスは、他のコンバージェンスを支える土台ですが、製品やサービスが崩壊的革新とならない限り、価値を生み出すことはありません。

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