日本人の5人に1人を襲う「脳卒中」の恐怖 脳の仕組みを知れば仕事も生活も豊かになる

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「いいことをしたら褒める」を何度も繰り返すと、やがて「いいことをしようかな」と考えただけで、ドーパミンの分泌を左右する脳内の線条体の活動が盛んになる。褒めることは何も他人である必要はない。みずからを褒めても効果があることがわかっている。

「資料作りのためにエクセルを立ち上げた自分は、偉いなあ」と口にするだけで、ヒトは暗示効果によって、やる気のスイッチがオンになりやすくなる。資料作りをすることはとてもいいことだと脳が判断するようになれば、脳はドーパミンをもっとほしがるようになる。いつまでも「やりたくない」と考えているよりも、「エクセルを立ち上げる自分は偉いかも」と連想するほうが、脳にとっても快感なのだ。 

人間の脳にはさまざまな秘密がある。週刊東洋経済は10月8日号(4日発売)で『最新科学でわかった脳入門』を特集。ビジネスパーソンが気になる、脳のやる気の仕組み、世界のエリートが実践する脳の休ませ方、記憶をつかさどる脳の海馬の仕組みのほか、脳をめぐる深刻な病気である①脳卒中(とくに脳梗塞)、②認知症、③不眠などについて追った。

日本人の5人に1人がかかる脳卒中

脳をうまく使えば、人間の能力ややる気を高めたり、引き出したりできる半面、脳に何らかの問題が起きれば、もちろん悪い影響が出る。特に、中高年世代にとって脳卒中は決してひとごとではない。日本人の5人に1人がかかるのが、脳卒中だからだ。47歳で脳出血を発症し、今も後遺症に苦しんでいる澁谷建さん(51)は、取材で出会った脳卒中患者の1人である。

4年前に脳出血を発症した澁谷さんは、「忙しかった仕事を終えた2~3カ月後に倒れた」。不動産関連の会社経営者として独立後、忙しい生活の中で健康に気を付ける余裕はなかったという。出血は、頭頂葉(頭のてっぺん辺り)の右側、皮質と呼ばれる頭部を覆う外側部分の下で、左半身マヒの後遺症が残った。発症1週間後にリハビリの病院に転院したときは寝たきりだったが、1カ月後には杖を突いて歩けるまでに回復した。

3カ月後に退院し、日常生活に戻ってからの大変さは想像以上だった。苦しいリハビリの成果で自然な歩き方を取り戻し、左の手足も動くようになった。しかし左半身の感覚は戻らなかった。「左手で物を握ると、形や材質がわからない」。発症から4年が過ぎた今も感覚障害を抱え、つねられても痛みを感じない。目からの情報に頼らないと、お椀を持つことさえ難しくなってしまった。

当然、仕事にも影響が出た。病院では特に意識しなかったが、高次脳機能障害を抱えていた。高次脳機能障害とは、脳が損傷したことで注意障害や言語障害が起こる心理的な障害のことで、自分の行動や感情を適切にコントロールできなくなる。そのため、「見えない障害」ともいわれる。

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