なぜ、ありきたりな商品が量産されるのか? ディレクター的ものづくりの限界

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むしろ、放映当時はそこそこの人気であっても、のちのちマニアが名作と称えて、それによりDVDが売れ続け、ゆくゆくは映画化、シリーズ化するような反響をねらうには、従来のスターシステムを崩さなければなりません。この俳優ならこういう演技をするだろう、というパターンが出来上がっていない、まだ無名の俳優を集めます。そして脚本家もベテランではなく、小劇場出身の新しい才能を起用したりします。

そうすると、事前にあまり出来上がりの見当がつかないドラマになるわけです。制作時点では、この俳優のこういうシーンにはこういう撮影の構図が良い、などのセオリーがまだないのです。そうすると現場での調整コストは増えますが、その代わりに、現場で手探りしながら生まれる面白いアドリブ、アイディアがたくさん盛り込まれ、ドラマの画面からも熱気が伝わってくるようになるといいます。

三宅 秀道 (みやけ・ひでみち)
東海大学政治経済学部経営学科 専任講師
1973年生まれ。神戸育ち。96年早稲田大学商学部卒業。都市文化研究所、東京都品川区産業振興課などを経て、2007年早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員を経て、10年より現職。専門は、製品開発論、中小・ベンチャー企業論。これまでに大小1000社近くの事業組織を取材・研究。現在、企業・自治体・NPOとも共同で製品開発の調査、コンサルティングにも従事している。著書に『新しい市場のつくりかた』(東洋経済新報社)がある

近年だと、たとえばTBSなら『大人計画』の宮藤官九郎さんを脚本に起用したいくつかのドラマが、そういう作り方をして成果をあげて…」とうかがって、なるほど、『池袋ウエストゲートパーク』とか『木更津キャッツアイ』とか、もちろん人気俳優が主演したけれど、あのドラマの前にはそれほどの人気ではなかったような気がするし、脇役もあのドラマで有名になった人が多く、それまでは無名だったように思います。

新しいコンセプトのドラマというのは、プロデューサーが企画する時点がまず勝負なのです。後からディレクターがどれだけがんばっても、企画の時点で的を外していたら、取り返せないものなのです。その逆に、ねらいが良くても演出が悪くて企画の良さを活かせない、ということならありえますが。

それではプロデューサーがサポートに徹して、ディレクターが前に出るドラマの制作というのはどういうものでしょう、とお聞きしたところ「そういう事例は日本映画でも多くありますが、あるディレクターや監督がその世界観を確立していて、後は得意技をシリーズ展開していくような局面では、そうなることが多いですね」という答えが返ってきました。

こういうコンテンツ制作の事例を「プロデューサー主導型」と「ディレクター主導型」に分類してみると、またいろいろ見えてきそうです。

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