看過できない中国の地方政府債務問題 景気・経済観測(中国)

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中長期的な中国経済の先行きという点からは、地方政府債務問題への警戒感が高まった。その大きなきっかけとなったのが、元財政部長・項懐誠氏の発言である。項氏が4月6日、中央政府と地方政府の債務残高を合算すると30兆元を超えているかもしれないと述べたのである。

地方債務残高が急拡大、14年ぶりの格下げ

2012年末の中央政府債務残高は7兆7556億元なので、地方政府債務残高は22兆元超という計算になる。この金額は、国家審計署が2010年末の地方政府債務残高の数値として発表していた10.7兆元の約2倍である。「個人的見解」と断ったうえで項氏が披露した推計値ではあったが、元財政部長の発言である。地方政府債務問題が改善ではなく、悪化に向かっていると受け止められた。

その端的な現れが、格付けの引き下げである。4月9日には、フィッチ・レーティングスが人民元建て長期国債格付けを最上位から4番目である「AA-」から1段階下げ、「A+」にしたと発表した。14年ぶりの引き下げであった。ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、国債格付けを「Aa3」(最上位から4番目)に据え置いたものの、見通しを「ポジティブ」から「安定的」に引き下げた(4月16日)。

30兆元という政府債務残高は、対GDP比で約58%に相当する。決して低い数字とはいえない。しかし、中国がデフォルトに陥る可能性は低い。潤沢な外貨準備が示唆するように、中国は対外純債権国であり、政府債務のファイナンスを海外に頼る必要性に乏しいからである。対外純債権の規模は、実に1兆7364億ドルに達している(2012年末、対GDP比で21.0%)。

格付見直し後も、フィッチ・レーティングスが「AA-」(「デフォルト・リスクが非常に低い」)、ムーディーズ・インベスターズ・サービスが「Aa3」(「信用リスクが極めて低い」)としているのも、こうした強みがあってのことだ。

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