看過できない中国の地方政府債務問題 景気・経済観測(中国)

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しかし、そうした見方は間違いだろう。すでに中国の地方政府は土地使用権の売却益、土地・国有資源採掘権の有償使用収入に頼った財政運営を行っており(2011年時点で合計3兆元程度)、それでもなお政府債務が拡大している状態にある。未売却資産は、これまで売却した物よりも経済的価値が劣る可能性が高い。

また、土地使用権や国有資源採掘権を一気に売却すれば、価格が急落する。平時の価格で算出された上記の推計よりも少ない収入しか実際には得られないだろう。さらにはその場合、売却できる土地使用権や国有資源採掘権が枯渇するため、以後の財政運営は困難を極めることになる。

地方政府による投資への警戒姿勢続く

習近平政権は、地方政府による投資の加速に対しては引き続き警戒的な姿勢を崩しておらず、7%台後半の成長でも十分だというメッセージを出し続けている点は評価に値する。しかし、まだ持続可能な新たな財政・社会保障制度の姿、そこに至る道筋が描けているわけではない。

1994年に中央・地方政府間の財政配分について大きな改革が行われ(「分税制」導入)、地方政府の財政収入比率が引き下げられてから約20年が経とうとしている。その歪みが今、地方政府債務の拡大となって噴出してしまっている。

現在、上海・重慶で試験的に導入された不動産税(建物の取得価額をベースに課税するもの)の適用対象拡大など財政改革措置が漸次打ち出され、実行に移されてはいる。しかし、上述のとおり、少子高齢化・人口減少時代の到来は間近に迫っている。財政・社会保障制度のグランドデザインを描き直し、改革を急がねばならない。習近平政権に残された時間は多くはない。

伊藤 信悟 国際経済研究所主席研究員

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いとう・しんご

1970年生まれ。東京大学卒業。93年富士総合研究所入社、2001年から03年まで台湾経済研究院副研究員を兼務。みずほ総合研究所を経て18年に国際経済研究所入社。主要著書に『WTO加盟で中国経済が変わる』(共著、東洋経済新報社、2000年)、主要論文に「BRICsの成長持続の条件」(みずほ総合研究所『BRICs-持続的成長の可能性と課題-』東洋経済新報社、2006年)、「中国の経済大国化と中台関係の行方」(経済産業研究所『RIETI Discussion Paper Series』11-J-003、2011年1月)など。

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