学生結婚で親になった、あるカップルの"選択" カップルが愛情と敬意を注ぐもの
正夫さんの行動と取材時の様子から、不言実行の人というイメージがわく。ただ、佳恵さんが正夫さんに惹かれるのは一般的な意味での「強さ」とは違う。「彼のふわふわしたところが好きですね。人を枠にはめない。こうでなければならない、という固定観念がほとんどないところがいいなあ、と思うのです 」
こういう両親を見て育った子どもたちは、家のことをやるのは「当たり前」と思っている。正夫さんは「お家のお手伝い」という言葉を嫌う。ある時、人から「お手伝い、偉いわね」と褒められた長女は「お手伝いじゃなくて、家族の一員として当たり前なの」と“演説”したという。
佳恵さんが博士号を取得したら、海外で研究するため日本を離れることは、夫婦で合意した計画だった。夫の正夫さんは、渡航後、半年ほどフリーランスで働いた後、同じ国内で就職している。
葛藤もあった。渡航前、佳恵さんが記した「辞めてもらう側の気持ち」は印象的だ。夫婦は対等だから、申し訳ないというのは違う。自分の在外研究は、何年も前から計画していたことだ。でも、専門を生かし、一緒に子育てしながらやりたい仕事を続け、実績を作ってきた配偶者に、自分の都合で仕事を辞めてもらうことを「当たり前」とは思えない。
自分が「選び取ったもの」に最大限の努力と愛情を
ふたりがお互いのキャリアを築き、一緒に子育てをしてきたのは同年代が若さと独り身の自由を謳歌していた時期でもある。20代前半で結婚、出産することで、得た物だけでなく失った物もあるかもしれない。自分が「選び取ったもの」と「選ばなかったもの」を認識し、前者に最大限の努力と愛情と敬意を注ぐところに、ふたりの魅力がある。
今、日本は「女性活躍」真っ盛り。政府も企業も、佳恵さんのような人を必要としている。でも、彼女自身がいちばん気になるのは、自分と属性が近い、いわゆるエリート層のことではない。経済的に困難な状況にある人たち、女性たち、子どもたちの置かれた状況や改善の取り組みや政策について、佳恵さんはさまざまなことを考え、意見を述べる。
「自分はたまたま両親元気で子どもに教育を受けさせてくれる親の元に産まれました。自分たち自身が健康で、子どもたちも健康です。それに、災害や不運な事故にも見舞われなかった……。多様な生き方をしている人、せざるを得ない人、困難にある人々の状況を改善させるということは、次世代を含む社会のあらゆる人にとって大切なことだと私は考えています」
ふたりが次のキャリアや家族生活の舞台としてはたして日本を選ぶのか。おそらく、ふたりが魅力を感じるのは「グローバルエリート」だけを惹きつける街ではなく、さまざまな家庭背景を持つ、多様な社会経済階層の人が生きやすい街だろう。
【2020年6月26日13時40分追記】
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