一流の人間は、「負け」を転がしてカネにする 格闘家・青木真也「夢を語るのは詐欺師だ!」

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格上との試合は半分以上、負けるリスクがあった。でも、そこを乗り越えたことで今の地位があると思っている。

こんな計算ずくの僕の生き方を「夢がない」と言うのは結構だが、多くの夢を語る選手が僕より弱いのはなぜだろう。悔しかったら、僕を超えてみてほしい。

闇雲に夢に向かっていくのは勝手だが、見当違いの努力をしていたら、いくら頑張っても意味をなさない。どこまで守り、どこで攻めるか。自分の市場価値をいかに高めていくのか。そういったことを、自分自身を客観視しながら考えていかないといけない。

僕のファイトマネーは、自分の環境が変わったときに上がってきた。サラリーマンで言ったら転職のタイミングになるだろうか。警官を辞めて「PRIDE」に参戦したとき。「PRIDE」が潰れ「DREAM」が立ち上がったとき。そして、「DREAM」がなくなって、シンガポールを拠点とする「ONE FC」と契約したときだ。

同じ団体や会社にいても、条件はなかなか変わらないもの。自分の値段を知るためにも、一度マーケットにさらされるのは大事なことだ。僕はいずれの場合も、前所属団体よりも好条件で迎え入れてもらってきたが、決して偶然ではない。

「PRIDE」時代から「自分の値段がいくらなのか」とつねに考え、誰もが欲しがるような人材でいることを意識してきた。

代えがきかないファイターは、自然と商品価値は高くなる。強いのは当たり前で、ほかに似たような選手がいないことが、付加価値として重要になってくる。僕に関して言えば、チャンピオンという価値に加え、誰も見たことのないようなトリッキーな寝技を数多く持っていたから、魅力的なオファーが届いたのだと思う。

「アスリートなんだから、見せ方なんか考えずに競技だけに集中すればいい」という意見もあるかもしれない。だが、格闘家はサッカー選手や野球選手と違い、良くも悪くも実力に比例して給料が上がるわけではない。

自分自身で商品価値をつくり上げていかなければ、どんどん淘汰されるような世界で生きている。他人と同じことをやっていたら埋没してしまうから、差別化を図る必要があったのだ。

フリーランスにとって、自分の価値を自分でつくるという意識は大切だ。
いいように安く使われてから気づくようでは甘い。

大衆と添い寝する

新日本プロレスのオーナーである木谷高明さんが語った「すべてのジャンルはマニアが潰す」という言葉がある。

僕が大衆を意識するようになったきっかけは、「DREAM」時代のテレビ中継だった。テレビ局員たちと関わることで、彼らの視聴率1%に対する思いを、ひしひしと感じることができた。

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