32歳高年収女子は「恋愛偏差値」が低かった! 東京カレンダー「崖っぷち結婚相談所」<6>
オフィスにはしょっちゅう、ヘッドハンターから転職の誘いの電話がかかってくる。あわよくば海外勤務になり、ナヨナヨの日本人男性よりも、もっと男らしいイイ男を見つけることだって可能だ。
婚活に本腰を入れて1カ月弱、杏子は得意の「仕事への逃げ」のマインドを持ち始めた。
「意外に、根性がないんですね」。京王プラザホテルの『アートラウンジ』にて待ち合わせた直人に、一連の報告を済ませると、彼は冷めた声で答えた。相変わらず、この男のセリフは、いちいち杏子の心を逆撫でる。
「まだ大した活動もしてないのに、もう“仕事逃げ”ですか」
「……根性って話ではないでしょう。ただ、人として、得意分野と苦手分野はあるじゃないですか。私は得意分野の仕事に特化した方が、人生の効率が良いんじゃないかと思っただけです」
直人は、呆れた視線を杏子に投げ、軽く溜息をついた。いつものように早口で叱咤されるのを予想していた杏子は、拍子抜けしてしまう。
気まずい無言が流れ、杏子はソワソワと落ち着かない。もしや、本気で直人を怒らせ、見放されてしまったのだろうか。
「だって、一般的な日本人男性には、私の良さなんて分からないんですよ。結局、尻込みされるだけです。海外のお客さんや、日本人だって、大手企業の有名な社長たちには、私、結構可愛がられるんですよ。ゴルフ接待でも重宝されるし……」
「では、そういった人種の方と、ご結婚されてはいかがですか」
直人に即答され、杏子はまた返事に困る。杏子が今例に出した男たちは、既婚男性ばかりだ。直人はそれを見抜いて嫌味を言っているのだろう。
恋愛偏差値の低さを自覚することから、婚活は始まる
「杏子さん、僕はね、突然同期の由香さんのような女性になれ、とは言っていません。そんなの、偏差値40の高校生に東大を目指せと言っているのと同じです。ただ、杏子さんには、ご自身の恋愛偏差値は低いと言う事実を、きちんと自覚してもらいたかったんですよ」
「恋愛偏差値が低い……?」
「杏子さんは確かに美人だし、小さい頃から勉強もできたのでしょう。仕事能力も高いし、いわば、本気で苦労したことはないですよね。あなたの様な女性は、周囲から褒め称えられるのに慣れ過ぎて、勉強や仕事に対して努力はできても、人間関係には努力ができない」
「人間関係の努力って、どういう意味ですか?」
「前にも言いましたが、EQが低いんですよ。まぁ、簡単に言えば、一緒にいて、つまらないんです。つまらないどころか、飯島さんには不快感すら与えていましたけどね」