一つは予備選において、バーニー・サンダース上院議員が予想をはるかに超える人気を得たからで、これによってクリントン氏は意図していた以上に「反TPP」のスタンスを強めることを余儀なくされた。
もう一つ想定外だったのは、トランプ氏の躍進だ。同氏はサンダース同様、米国における収入格差や経済的な不平等さに不満を持つ有権者から絶大な支持を得ている。こうした人たちにとって自由貿易協定は、大手企業やその他のエリートたちの利益になる一方で、一般労働者には不利益になる「不正に操作されたシステム」の象徴的存在になってしまっている。
さらに、クリントン氏側近にも「反TPP」包囲網が構築されつつある。
7月26日午後、クリントン氏の選挙参謀長ジョン・ポデスタ氏は、ウォールストリート・ジャーナル紙主催の昼食会で「クリントン氏は選挙前にTPPに反対しており、選挙後も反対する」と表明した。また、クリントン氏が特定の条項に関する再交渉を支持することもないとも明言。ポデスタ氏はクリントン夫妻の長年の側近の一人であり、オバマ大統領とも非常に近い存在だ。
そのわずか数時間後、同じくクリントン夫妻の友人の一人、テリー・マコーリフ、バージニア州知事がクリントン氏が大統領に選ばれた暁にはTPPを支持する可能性があると示唆したが、これに対してポデスタ氏から「政治的なお仕置き」を受けた同知事は発言を修正。ポデスタ氏はその後、「マコーリフ知事のことは好きだが、この件に関しては完全に間違っている。ヒラリーは選挙の前も、その後もTPPには反対だ。以上」とツイートしている。
民主党に対して絶大な影響力を持つアメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)のリチャード・トラムカ会長も9月初旬、こう言及した。「私とクリントン氏とは30年の付き合いがあるが、彼女が最後まで守れない約束を私にしたことは1度もない。私は、クリントン氏がTPP反対を貫き通すと固く信じている」
クリントン氏を救うのは?
こうした中、クリントン氏に重くのしかかるのは、国務長官としてオバマ氏のアジア重視政策を助けた、という事実だ。前述の通り、クリントン氏は「対中国政策」としてのTPPの重要性については熟知しており、国務長官としてTPPを推進した張本人でもある。大統領選に選ばれてからも反TPP姿勢を貫くようであれば、今度はアジアのリーダーたちからの信用を失う危険性が出てくる。
難しい立場に置かれているクリントン氏だが就任後、この件についてクリントン氏に道筋を示せるとするならば、カート・キャンベル前米国国務次官補(東アジア太平洋担当)かもしれない。ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授とともにクリントン氏のアジア諮問チームの共同議長を務めている同氏はこのほど、アジア重視政策の重要性を訴える著書を上梓した。
CNASのクローニン氏によると、クリントン氏にとってTPP問題の「突破口」となるのは雇用創出である。「幸いなことにクリントン氏は就任後、100日間に取り組む最優先事項として雇用創出とインフラ整備などに取り組むとしている。こうした中で、キャンベル氏のような信頼に値するアドバイザーたちが、クリントン氏の真の考えを表すように勧めるのではないか」(クローニン氏)。
クリントン氏にとっては、TPP問題を「どう落ち着かせるか」が当面の最重要課題の一つとなりそうだ。
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