「お得なきっぷ」にJR間の連携不足が表面化 民営化30年、グループの協力は縮小傾向?

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1つ目の条件である「大人2名以上での発売」は、このきっぷがマイカー利用者対策の商品であることが理由と考えられる。東京駅までは、熱海駅から片道約100km、小田原駅からは約80kmである。マイカーで出かけるのにちょうどよい距離であり、2名以上集まればマイカー利用の動機が強まる。割安感を打ち出したきっぷを発売することによって、こうしたマイカー族に新幹線の利用をアピールすることができる。

2つ目に挙げた、発売がJR東海のみどりの窓口(きっぷうりば)に限定されている理由としては、JR東日本への手数料支払いが不要になることが考えられる。

JR東海の『第29期 有価証券報告書』によると、旅客運輸収入のうち主要なJR他社による発売額の構成比は、JR東日本27.2%、西日本旅客鉄道(JR西日本)20.1%となっている。個別損益計算書に記載されている旅客運輸収入1兆2947億2500万円のうち、JR東海のきっぷがJR東日本で約3521億6500万円分、JR西日本で約2602億4000万円分も発売されていることになる。

JR他社への支払手数料を販売額の5%として計算すると、JR東海はJR東日本へ約176億800万円、JR西日本へ約130億1200万円の手数料を年間で支払っている計算となる(いずれも2015年度)。JR東海としては、きっぷの発売箇所を自社の窓口に限定すれば、JR東日本への手数料支払いを回避できる。

きっぷそのものはメリット大

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東海道新幹線のライバル、東海道本線の2階建てグリーン車(写真:貴@西M / PIXTA)

このきっぷの利用可能区間が熱海駅または小田原駅~東京駅間となっている理由としては、熱海駅~東京駅で競合するJR東日本の東海道本線や、小田原駅~都内で競合する小田急電鉄に対する競争力強化のためのきっぷである点が挙げられる。

東海道本線東京駅までの普通列車グリーン車往復(事前料金)+東京メトロ24時間券の合計額は、熱海駅発の場合平日6440円・土休日6040円、小田原駅発だと平日5540円・土休日5140円となる。「新幹線&メトロ 東京日帰りきっぷ」を使えば、熱海駅発が平日490円・土休日90円、小田原駅発が平日410円・土休日10円安くなる(いずれもきっぷ運賃の場合、以下同じ)。東海道本線快速は熱海から東京まで約100分、小田原からでも約80分かかるので、所要時間が約半分の新幹線を使える「新幹線&メトロ 東京日帰りきっぷ」のメリットは大きい。

また、小田急電鉄の特急ロマンスカーとの比較では小田急の方が990円安い(小田原~新宿間のロマンスカー往復+東京メトロ24時間券=4140円)ものの、ロマンスカーの新宿までの所要時間が約80分であるのに対して、新幹線では東京まで約40分であることを考慮すると、「新幹線&メトロ 東京日帰りきっぷ」には東京東部エリアなどへのアクセスでは一定の競争力があると言えそうである。

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