砂川さんは「人生の分岐点としてのがん」について語ります。
「がんを機にバーンアウトして仕事を辞めてしまう方がいる一方で、がんを契機に自分の使命のようなものを見つける方もいらっしゃいます。 自分らしい人生を送るために、人生を見つめなおす機会になるのです。もちろん、一人で考えていてもなかなか答えが見つからないこともあります。キャリアコンサルタントなどの専門家を利用されるのもいいでしょう」(砂川さん)
西口さんも、まさにその一人でしょう。西口さんは、同じ悩みを共有できる同世代が周りにいないことで、言いようのない孤独感、不安も抱えるようにもなりました。そこで立ち上げたのが「キャンサーペアレンツ」です。きっかけは、友人から「ヘルスケアに特化したビジネスプランコンテストがある」と誘いを受けたことでした。
「この世代の患者をネットワーキングして、自分たちなりの『乗り越え方』をシェアしあうことができれば、それによって救われる人がたくさんいると考えました。応募の結果は惜しくも落選でしたが、活動はスタートしました。私と同じく、子どもがいる、闘病している親を集めたんです。患者さんが何に困っているのかをオープンに伝えられる場所が社会にないと思うので、この活動を通じて解決していければと」(西口さん)
今、最も不安に感じていること
高齢者やその家族向けのサポートは多いものの、ミドルエイジのがん患者には声を上げる場さえなかったのです。がんを告知されたとき、会社にはどんな制度があって、自分はどのように行動し、会社側はどう対応すべきなのか。多くの人が知ることで議論も深まっていくと、西口さんは考えています。そして自分自身にも「活動を通じて、いろいろな出会いがあった」と振り返ります。
そんな西口さん、今最も不安に感じていることは何でしょうか。
「家族。自分が亡くなったら、残される家族はどうなるのだろう。今までは僕の稼ぎで養ってきたが、経済的な面でどうなるだろう。親を亡くしたら子どもはどうなってしまうのだろう。奥さんも再婚するのだろうか。自分がいなくなったら親不幸になるのか、など、不安は尽きません」(西口さん)
だからこそ「お父さんが残したもの」として胸を張れるように「キャンサーペアレンツ」の活動を継続していると言います。お子さんは今、小学2年生。病気のことも、余命のことも、はっきりとは伝えていないそうです。まだ若いからこそ「まだまだしたいこともいっぱいある」と言います。
「未来のために歯を食いしばって頑張っても、その未来は来ないかもしれない。そう思うと、悲しさを感じる。死ぬことは本当は怖い。もっと生きていきたいと、本当は思う。だからこそ今を大切にしたい。未来のために今を頑張ろうという想いも正論ですが、自分は『今、楽しい』が前提です。そういう価値観が生まれるようになりました」(西口さん)
私よりも若い西口さんが、がんにおかされ、生命の危機と真正面からぶつかりあいながら、前向きに生きている……。もちろん、すべて理解しきれるはずはありませんが、決して忘れることのできない、たくさんのメッセージを伝えていただきました。
がんはいつ自分や自分の周囲にふりかかってもおかしくない病気です。それでも働き続けるということ。社会に貢献し続けるということ。その想いが、少しでも多くの人に伝わり、また、議論が尽くされて社会の仕組みも変わっていくことを、心から願います。私自身、今、この一瞬をしっかり生きなければならないと改めて思いました。
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