キプロス支援で合意も先が見えない欧州危機 欧州の危機は何も解決していない

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混乱が長引かなかった理由はいくつか考えられる。

まず、FRB(米国連邦準備制度理事会)の月850億ドルの長期国債・MBS(住宅ローン担保証券)購入(いわゆるQE3)をテコに米国の経済が好調であり、世界の金融市場にリスクオンムードが浸透していたことだ。

また、ECBのドラギ総裁の「いざというときには危機国の国債を無制限に購入する」という発言が神通力を発揮し続け、スペイン、イタリアの国債利回りが落ち着いている。

こうした中で、キプロスは小国であり、大国で危機が起きても同じ処理にはならないだろう、という漠然とした期待感もあるのだろう。

銀行の資本不足が問題

しかし、冷静に考えてみると、欧州の危機はいまだに進行中である。ジャパン・クレジット・アドバイザリーの大橋英敏社長は「ECBが支援できるのは流動性供給にすぎない。銀行の資本不足が問題となった場合、依然としてEU、ユーロ圏は解決策を持っていないことに注意が必要だ」と指摘する。

今回問題となったのは国家債務というより、銀行の資本不足だった。南欧の経済は今年もマイナス成長で、地価下落も続いている。日本の1990年代を思い出してみればわかるように、資産価格の下落が続くかぎり、不良債権は増え続け、処理しても間欠的に危機が再燃する。

実際、市場は大荒れとはならなかったものの「キプロス問題以降、ユーロドル相場やスペイン、イタリアの利回りにはネガティブな見方が織り込まれている」(大橋氏)。危機のマグマはたまったままだ。

EUは昨年6月に銀行同盟の深化を決めたものの、その具体策である銀行監督の一元化、資本が毀損した場合の早期是正措置、ESM(欧州安定メカニズム)を通じた資本注入の仕組み、その資金調達の方法などは決まっていない。EUはこうした仕組みが整えば、破綻処理においてベイルイン(株主や債権者による損失負担)を方針として決めているので、前述のダイセルブルーム議長の発言は本音を語ったものといえる。だが、現段階で口を滑らすあたりに緊張感のなさが表れている。

キプロス問題を奇貨として具体策の議論が進展することが望ましい。だが、EUで最大かつ唯一の支援能力を持つ国であるドイツが今年の9月に総選挙を控えており、それまでは、議論はまったく進む気配がない。

(撮影:ロイター/アフロ =週刊東洋経済2013年4月13日号

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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