「難民問題」を解決するための処方箋は何か EUが存続するためには、結束が不可欠だ

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包括的な取り組みとはどんなものか。最終的な形がどのようなものであれ、それには7つの柱がある。

第1に、EUは最前線の諸国から大量の難民を、安全かつ秩序だったやり方で直接受け入れなければならない。仮にEUが年間30万人の難民受け入れを公約すれば、純粋に亡命を求める人々が不法な形で欧州にたどり着こうとする必要はなくなる。

第2に、EUは国境を管理する権限を取り戻さなければならない。第3に、EUは包括的な難民政策に十分な資金を充てる必要がある。当初の数年間は最低でも年間300億ユーロが必要だ。最初から資金を多めにつぎ込んだ方が、もっと長い期間を通じて同じ合計額を費やすよりも、大きな効果が見込める。

第4に、EUは国境を守り、亡命申請を認定し、難民を割り振る共通の仕組みを打ち立てる必要がある。手続きが単一化されれば、難民が受け入れ国を替えて移動するインセンティブはなくなり、加盟国間の信頼を再構築させることにもなる。

第5に、難民が再定住するための自主的なマッチングの仕組みが必要だ。EUは加盟各国に、彼らが望まない難民を受け入れるよう強要すべきではないし、歓迎されない土地に行くよう難民に強いることはできない。

第6に、EUは難民を受け入れる国への支援を強化するとともに、アフリカへのアプローチにもっと寛容にならねばならない。受け入れ国のニーズに合った資金提供を通じて現地での雇用を創出すれば、欧州に移民が押し寄せる圧力も減る。

最後の柱は、経済的な移民を歓迎する環境を根付かせることだ。欧州で高齢化が進んでいることからすれば、移民受け入れにはコストよりもメリットが大きい。その機会さえ与えられれば、移民は受け入れ国の革新と発展に大きく寄与できることは、すでに証明されている。

すべてのピースをはめるのは困難だが

以上7つの原則を追求することは、大衆の懸念をしずめ、混乱に満ちた亡命申請者の流入を抑え、移民が社会に完全に溶け込むことを保証し、中東・アフリカ諸国と相互に利益のある関係を構築し、欧州の国際的な人道主義上の義務を満たすには、本質的なことだ。

難民危機は欧州だけが取り組むべき課題ではなく、最大の緊急課題だ。そして難民問題で大きな前進がみられれば、ギリシャ債務危機や英国のEU離脱、対ロシア政策など他の課題に対処するのも簡単になる。

すべてのピースが違いにきちんとはまる必要があり、成功の機会は依然として限られている。しかし、成功するかもしれない戦略がある限り、EU存続を願うすべての人々は、その下で結束すべきなのだ。

ジョージ・ソロス 米ソロス・ファンドマネジメント会長

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米オープンソサエティ財団の創設者。

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