南相馬市小高区に見る、原発被災者の窮状 住む家を奪われ、生活再建もままならず

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避難指示解除準備区域と居住制限区域では、賠償の額が大きく異なることから、生活に困窮する住民にとって、その区分けは重要な意味を持つ。

高い放射線量を計測(松倉さん宅)

松倉さんが自宅の庭先の地面近くに線量計をかざしたところ、14.55マイクロシーベルト/時もの放射線が計測された。年間に換算すると、発がんのリスクが顕在化する100ミリシーベルトを優に上回る値だ。というのも、雨が降るたびに山から水が庭先に流入し、放射性セシウムが濃縮しやすくなっているためだ。杉の木にも囲まれているため、自宅の中でも1マイクロシーベルト/時を超す場所が多い(写真)。

加えて、地震の被害やこの2年間に修繕もままならなかったことから、家の壁にはひびが入り、浄化槽も給湯器もだめになった。井戸水も復旧のメドが立っていない。

避難指示の解除を心配する住民

自宅および周辺の除染が終わったとしても、松倉さんの生活が元に戻る保障はない。農地の除染は環境省から計画すら示されていない。こうした中で家の周りの除染終了をきっかけに避難指示解除が決められることになったら、「とたんに路頭に迷ってしまう」と松倉さんは言う。

というのも、避難指示が解除された場合には、精神的損害や就労不能損害、建物の賠償などが次々に打ち切られてしまうためだ。

2月2日に市内で開催された、桜井勝延市長と小高区の住民の懇談会でも、多くの住民から市の対応について疑問の声や批判的な意見が次々と出た。

松倉さんと同じ神山地区に住む女性は、「住民に何の相談もないまま、(住民の立ち入りを厳しく制限する警戒区域が解除され)避難指示解除準備区域に区分けされたことには納得していない」と語った。この女性は「帰還できるとみなすタイミングは何を基準に判断するのか。前回のように、市長が先走って住民に何の相談もなく、避難区域の変更を受け入れてしまうことだけはやめてほしい」と語気を強めた。

市長との懇親会に参加した國分さんも、桜井市長に問いただした。

「勝算の不明確な除染に頼るやり方で本当にいいのか。それよりも、別の場所での再起を決断した人を含めて、住民の生活再建を第一に考えてほしい」

原発事故から3年目に入った現在、新たな生活の見通しの立たない住民がいらだちを強めている。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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