そして、最後に紹介するのは、「イグジットマネジメントの思想」。辞めにくい状況の中で、成果の乏しい人に転身してもらうアクションを起こす組織ではなく、社内外の流動性を高め(垣根を低くし)、成果の高い人材に動機付けするアクションを取る組織を目指すべきとされている。なぜ後者を薦めるかといえば、「関係性の解消」の方が「関係の構築」より、はるかにモチベーションを使うから。解雇規制の問題があることが念頭に置かれていることがうかがえる。
そして、辞めやすい環境を作り、辞めてほしくない成果の高い人との関係構築強化(モチベーション強化)をする方が効果的であることを指摘。そのための人事施策側面として、4つの重要なポイントを提示する。
まずは、「即時清算型」報酬体系の強化。
年功序列型給与や、多額な退職金制度などに代表される「後払い要素」を縮小させるべきだという。「途中で辞めたら損をする」という風土を改革し、個人と組織が互いに貸し借りを作らない関係を作ることで、いわゆる「不適切人材」が組織にぶら下がることが防止されるというわけだ。確かに、リストラの対象とされた人から出る不満として、「若い時、安い給料に見合わない仕事量をこなすのも、将来までの安定的な雇用保障への期待があったから」というものが多い。若い段階から、仕事に見合った納得できる報酬を受け取っていれば、会社にしがみつこうとする考えも起きにくいだろう。
フィードバックと研修を重視
次に、人事評価の多頻度化。
評価する側と評価される側の納得感を高め、変化に対応した「求められること」を明確にし、その上でコミュニケーションを多くとることが大事だとされている。不意打ち型のリストラは、トラブルの元凶で、退職させることを目的化するあまり、違法行為をして裁判にもなることも多い。こうしたことを考慮したものと思われる。
そして、三つ目は自己選択型及び会社選抜型の研修制度の確立。
自己の能力開発機会となる研修の機会を、社員に選ばせることが前提とされている。これは、冒頭にも出てきた、従業員が「雇用される能力」を、納得感を持って高めるためのものだろう。逆に、会社が主導する研修は、「投資価値のある人材を組織が任意に選ぶ」としている。社内の戦力として投資する人間は、会社が選別した一部の人間に絞っていくということで、これは平等に昇進していく「年功序列」の排除につながる発想だ。「社員が選ぶ機会」と「会社に選ばれる機会」の両輪を整えることで、個人と組織はイコール・フッティング、すなわち「同等の条件」で関係が築かれるとされており、会社が社員を一方的に保護する姿勢は後退している。
最後に、社内労働市場の構築。
FA(フリーエージェント)制度を導入し、個々人に「自分という商品価値」を強く意識してもらい、社内労働市場での価値を体感することで、自立意識を高めるという。会社の指示に従っていれば仕事を与えられ、育成し、将来的な給与も保障してくれるという時代は終わった、ということだろう。
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