憲法観を対立軸に据えた民主党の「好手」

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先週、相次いだ「一票の格差」の違憲判決の衝撃が収まらない。国会は格差是正の「0増5減」実現優先か、定数削減を含む選挙制度の抜本改革かで揺れている。

ところが、「もう一つの憲法問題」が夏の参院選を左右する論争点となってきた。

改憲論者の安倍首相に呼応する形で、日本維新の会の橋下共同代表が3月30日、結党後初の党大会の終了後の記者会見で、参院選の目標として自民党、維新、みんなの党の3党で憲法改正の発議に必要な参議院での3分の2の確保を目指す考えを示したのだ。

参議院の総議員の3分の2は162だが、3党の非改選は計60人で、今夏の参院選で102以上を取らなければ届かない。総改選数は121だから、民主党など他党の総当選者を19人以下に押さえ込むのは、実際は不可能だろう。

おそらく民主党内に混在する改憲勢力の糾合を視野に入れ、憲法問題による民主党分裂の誘発を企図しているに違いない。

ところが、一方で橋下氏は「自民、公明両党による過半数獲得の阻止が体制維新実現の分水嶺」と党大会の挨拶で述べ、野党による共同戦線も提唱した。手始めに、前日の29日、みんなの党と参院選の候補調整に乗り出し、定員2~5人の選挙区の調整を終えた。

この動きを見て、民主党が4月1日、模索してきた維新との選挙協力を断念する方針を役員会で決めた。細野幹事長は「憲法観の相違」を唱え、参院選では自民、維新による3分の2確保の阻止を目標に、と強調した。改憲派混在の民主党が組織防衛に走った、野党共闘断念は自民党政権の独走を許し、改憲論の安倍首相を利するだけ、といった批判も噴出しそうだ。

だが、野党転落後、再生を目指しながら路線と将来像を描けずに迷走していた民主党が、憲法観を対立軸に据えて独自の方向を打ち出す決意を固めたのであれば、評価できる。このまま衰退の末、個々に他党に合流して雲散霧消という気配が濃厚だったが、もしかするとこの決断は将来の二大政治勢力再結集の第一歩となるのかもしれない。

塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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