安全保障のプロから見てトランプは危険だ 元共和党高官が不支持の理由を語る

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――クリントン氏は「米国史上もっとも支持率が低い大統領」になると見込まれていますが、こうした中でわざわざ賛否両論あるTPPの批准に踏み切ることはあるでしょうか。そもそも、米国経済へのインパクトはあまり大きくないと言われています。

確かに経済的な利点は少ないかもしれないが、外交政策とアジア戦略においては、TPPは非常に重要な協定だ。クリントン氏の支持者の多くは、同氏が就任1~2年以内にはTPPに取りかかると考えている。

米国政治は大きな変化に直面している

――たとえ敗れたとしても、トランプ氏が少なくとも共和党の指名を獲得した事実は、米国政治に大きな傷を残しそうです。

実際どういう影響が出るかは選挙結果次第だ。最悪のシナリオはトランプ氏が勝つこと。逆にトランプ氏が惨敗するのが最良のシナリオだ。いずれにしても政治システムはいくらか傷付くことになるだろうが、それもまた、米国が自信を取り戻す好機となるだろう。共和党上院議員、特に新世代の議員たちは非常に国際主義で、民主党の若手上院議員たちよりもはるかに積極的に安全保障について考えている。共和党の州知事についても同じことが言える。

米国の政治は今後もっと大きな変化に直面することになるだろう。こうした状況は、戦後社会のセーフティネット政策がグローバル化に追いついていないことや、高齢化、テクノロジーの細分化などと関係がある。トランプ氏はこうした変遷期における、突出して悪質な「変化」の一つだ。

政治学では、現状についてつねに構造的要因と、さまざまな個人の人格の台頭という両面からアプローチするが、現在起こっていることの多くは構造変化によるものだ。こうした変化の中で、ロナルド・レーガンやフランクリン・ルーズベルトのようなリーダーが誕生する。これから10~20年かかるかもしれないが、こうしたリーダーは必ず生まれるはずだ。

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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