安全保障のプロから見てトランプは危険だ 元共和党高官が不支持の理由を語る
――とはいえ、彼らはトランプ氏のように米国の孤立主義を進めようとしていたわけではありません。一方、トランプ氏は1930~40年代の孤立主義へ逆行しようとしているように見えます。
私もそう思う。しかし私が言いたいのは、共和党を始めとする保守勢力は、オバマ大統領の在任8年間、米国は中国、北朝鮮、イランや過激派組織のイスラム国(IS)にバカにされてきたことをもどかしく感じている、ということだ。こうしたもどかしさは、過去の共和党大統領も語ってきた。では今回何が違うかと言うと、有権者が自らの不満を、移民排斥主義者で一方的な軍縮主義者であるトランプ氏に投影させている点だ。なので、トランプ氏が負ければ、共和党にくすぶるこうしたムードを利用してのしあがろうとする新たなリーダー候補が出てくるのではないか。
――前ホワイトハウス主任経済学者のグレッグ・マンキュー氏は別として、なぜ著名な共和党経済学者からトランプ氏を批判するような書簡が出されないのでしょうか。
確かに国防について、とりわけアジアにおける安全保障においては、クリントン氏はかなり有能な国務長官だった。が、経済政策においては、彼女はかなり左派、つまりかつての民主党の立ち位置に移行したと言える。安全保障文書に署名した多くの人々がクリントン氏を支持していないのは、彼女が環太平洋経済連携協定(TPP)に反対しているからだ。
クリントンはTPPを批准するのか
――実際にはクリントン氏は中国との均衡を守るために、密かにTPPを成立させたがっているが、反面、選挙戦略上はそうハッキリ言えないという見方もあります。
当初、クリントン氏はTPPについては保留にしようと試みていた。ところが、トランプ氏が共和党の指名を得たとき、彼女のアドバイザーたちは「TPPには中立はない。どちらかにつかない場合は、反対の立場をとるべきだ」と助言した。クリントン氏の政策アドバイザーの一人は、「彼女はTPPについて戦略的かつ徹底的な見直しを行う。その際にはTPPを批准して欲しいという意見も考慮するだろう」と話すが、これにはまったく説得力がない。
幸いなことに、クリントン氏はTPPについて「再交渉する」とは発言していない。ただし、今後の問題は大統領選の後、彼女が米国の通商代表にふさわしい人物を迎え入れることができるかだ。加えて、TPPについてはサンダース支持者や、ほかのTPPに反対する民主党議員からも強い圧力がかかるだろう。
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