「国語力」を磨けば、日本の理系は世界で勝てる 「舌先三寸」のアメリカ人に負けて気づいたこと

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僕は今でも「舌先三寸」は好きではない。でも他人を「舌先三寸」とののしるだけでは何も前に進まないことも学んだ。負けて悔しいなら、勝者の技を盗まなくてはならないと思った。

だから僕は留学中、意図的に話す練習をし、書く練習をした。

僕がMIT在学中に学んだ話し方、書き方のコツは次回の記事で詳しくお話ししようと思う。ただ一点だけ、今回の記事で強調したいことがある。英語、日本語を問わず、国語力の下地となるのは読書であるということだ。

僕にとって幸運だったのは、なぜだかは覚えていないが、子供の頃から小説を読むのが好きだったことだ。読むだけではなく、自分で書きもした。特に留学中は悩みを吐き出す手段として小説を書いた。留学中に重ねていた書く訓練が期せずして役に立ち、「織田作之助賞・青春賞」という文学賞を授かったこともあった。現在はなかなか小説を書く時間が取れないが、同じ思考回路を使って論文を書いている。

理系に必要なのは国語力

では、日本では「理系」の仕事に国語力は無用なのか。そんなことは決してない。

世間で「研究者」といえば、毎日方程式を解いたり試験管を振ったりする仕事だと思われているかもしれない。「技術者」といえば、ひたすら設計図を書いたりコンピュータをプログラミングしたりする仕事と、思われているかもしれない。しかし現実は違う。僕は仕事の時間の半分以上を、話したり、書いたりすることに使っている。

研究とは、今まで誰も知らなかった世の中の真理を発見する仕事である。しかし、僕がどんなにすばらしい発見をしても、それを他人に伝えないまま死ねば、その発見はこの世から消失してしまう。だからこそ論文を書き、プレゼンテーションをして、自分の発見の価値を他人に伝えることがこの上なく重要なのだ。

また、研究をするには研究費がいる。研究費を取るためには、提案書を書いたりプレゼンテーションをしたりすることで、「理系」ではない人たちに対して自分の研究の価値を売り込まなくてはならない。

僕には経験がないが、会社勤めの技術者だって、企画書を書き、経営陣に新技術の価値を伝えるなどの場面において、国語力がものを言うのは同じだろう。

(ア)から(エ)の選択肢から正しいものを選びマークシートの該当する記号を塗り潰す能力や、計算した結果を小数点以下第2位まで解答欄に正確に記入する能力だけでは、研究費を取ることも、プロジェクトを立ち上げることも、新発見の価値を世に知らしめることもできない。自分の考えを言葉で話し、文章に書いて他人に伝える「国語力」こそ、理系の人間に最も必要とされる能力なのだと僕は思う。

また、これは慶応に教員として着任して気づいたことだが、多くの日本人にとって、英語が不得手である原因は国語力にある。つまり、英語で話したり書いたりするのが苦手な人は、そもそも日本語でも筋を立てて話したり書いたりするのが得意ではないケースが多いのだ。

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