米国人が魚の「産地」に関心を持つ日は来るか 水産物のトレーサビリティに挑む米企業
レッズ・ベストはニューイングランド地方の小規模な漁業者から魚を仕入れているが、数年前に魚の来歴を追跡できるソフトウエアを開発した。ニューヨークのブルックリンに本社を置くシー・トゥー・テーブル社も、顧客が仕入れ経路を確認するためのソフトを独自開発した。同社は1990年代半ばに創業した家族経営の会社で、レストランや大学に魚を納入している。持続可能な方法で養殖されたエビを専門に扱うウッズ・フィッシャリーズ社(フロリダ州)も、トレース・レジスターという名の同様のソフトを使っている。
この秋からは、オセアナとグーグル、そして非営利組織(NPO)のスカイトゥルースのプロジェクトを通し、多くの人が世界規模で水産業の現実を目にすることができるようになる。スカイトゥルースは航空写真と衛星写真をもとに景観の変化の研究を手がけてきたが、今回の「グローバル・フィッシュング・ウォッチ」では大まかなトレンドや各漁船の情報なども含めた漁獲活動を分析することになる。
捕った人の顔が見える魚を
アウアーバックはレッズ・ベストを立ち上げてすぐに、政府の規制や漁業のIT化が事実上、小型漁船の存在を脅かしていることに気がついた。小型漁船は遠洋では操業しないし、漁獲量も少ないが、採れる魚の品質は向上している。
「地元産の、捕った人の顔が見える魚をもっと食べてもらいたい」とアウアーバックは言う。
かつては他の同業者と同様、アウアーバックも時代遅れの複写式の伝票を使用していた。深夜2時まで書類の処理に追われる毎日だった。
「水揚げの際に漁船に1枚渡し、政府にも1枚、うちでも1枚保管していた。それから価格を書き入れた」とアウアーバックは言う。漁船への支払いも、伝票と照らし合して小切手を振り出しては郵送していた。「とてつもない悪夢だった」
今ではそうした作業はソフトウエアが処理している。例えば、マサチューセッツ州ウッズホールの桟橋に毎日午後、同社のトラックがやってくると、漁師たちが青魚やシマスズキ、カツオにホラ貝、カブトガニといった海の幸を積み込む。運転手は分厚い伝票の束の代わりに、防水仕様で無線通信機能のついたタブレットと、ブルートゥース接続のモバイルプリンターを持参している。
「運転手は漁獲データを直接、インターネットに送る。すると全米にいるわが社のスタッフ全員がリアルタイムで魚がトラックに積み込まれたことを確認できる」とアウアーバックは言う。トラックがボストンにある同社の加工場に着くと、魚はすぐに在庫リストに入れられ、政府への報告も行われる。