貧困とセックス、いずれ最底辺は銃を持つ 格差を放置すれば日本も銃社会に突入する

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中村:多くの高齢者は気づいていないけど、日本は極端な世代間格差を生んでしまって、貧しい若者たちによるオレオレ詐欺が流行した。オレオレ詐欺に手を染めるのは、ポエムに簡単に騙されない現実認識のある、能力が高めの若者たち。どれだけ対策しても特殊詐欺が止まらない現象は、これから始まる悲劇の第一歩という見解だよね。

鈴木:詐欺の横行と世代間格差は、ずっと僕が言い続けてきていること。かつての社会では、階級の壁を越える裏技が「勉強」と「進学」だった。今はそれらの裏技が意味をなさなくなって、大卒の貧困がゴロゴロあふれている。その猛烈なルサンチマンが蓄積していった結果、おカネを抱え込んだ高齢者を狙う者を生みました。それが特殊詐欺犯罪だと。

中村:大卒どころか、弁護士や歯科医になっても貧困の可能性があるというのは、めちゃくちゃな状況。奨学金制度のような貧困世帯の若者をたたき落とす落とし穴をばっちり作っているし、どうすれば階層の壁を越えられるのか、誰もわからない。

鈴木:特殊詐欺犯罪の始まりは、2003年ごろにオレオレ詐欺が激増したところにあります。どんどん詐欺組織が会社組織化する中で、2008年ぐらいから大卒とか大学中退という層が詐欺の現場に入ってきた。その頃に上層部がやり始めたのが「詐欺をする理由」の正当化を、なかば洗脳的な研修で現場の子たちに植えつけていくことだった。「日本の金融資産の過半数が高齢者に集中している。そのうえ、年金の受給額は20代の給与より高くて、老人はそれを使い切れずに死んでいく。そこから奪うことは最悪の犯罪ではない」という内容です。

中村:恐ろしいね。その背景には教育に対する失望があるよね。2004年から本格的に奨学金の有利子貸し付けを始めて、10年で化けの皮が剥がれた。特殊詐欺は官製の犯罪とまでは言わないけど、国によって拍車がかかっていることは否めないね。

高学歴詐欺プレーヤーに独特の怨嗟感情

鈴木大介(すずき だいすけ)/1973年千葉県生まれ。「犯罪する側の論理」「犯罪現場の貧困問題」をテーマに、裏社会や触法少年少女ら の生きる現場を中心とした取材活動 を続けるルポライター。近著に『脳が壊れた』(新潮新書・2016年6月17日刊行)、『最貧困女子』(幻冬舎)『老人喰い』(ちくま新書)など多数。現在、『モーニング&週刊Dモーニング』(講談社)で連載中の「ギャングース」で原作担当

鈴木:奨学金ルサンチマンではないけど、「こんなにおカネを払ったのに意味がなかった」という怨嗟感情は、高学歴詐欺プレーヤーに独特のもの。そう考えると、かつて労働力として搾取されてきた貧困層にも、自分の子ども世代に「勉強さえすれば、必ずこの階層から抜け出せる」と言い続けてきた人がいるし、今の国の子どもの貧困対策も、勉学の機会という部分にかなり集中している。

逆に言えば、もともと勉強が苦手な子は貧乏のままってことじゃないですか。労働者の自立には教育が必要と言っていました。それは、いわば知の格差の下層にいる人々の切り捨てですよ。

中村:勉強して上の階層に行くというのは、日本全体の共通認識でもあったよね。

鈴木:「貧=貧しい」「困=QoL(Quality of Life、生活の質)が極度に低い」となると、日本の貧困対策はQoLをあまり重視していない。「貧」を重視するのは国力の増強、「勉強すれば貧困から抜け出せる」とは「技術力を上げれば国力が上がる」というのと同じ。あまねく国民に広まるケアではない。そういう意味でも官製貧困かと。

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