金融政策だけで「デフレ脱却」はできない 池尾和人・慶応義塾大学教授に聞く

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──日銀総裁が黒田氏に替わると、何が変わるのでしょうか。

たとえば、万年最下位のプロ野球球団があったとして、監督を替えただけで優勝できるか。2位、3位でAクラスを争っているチームなら、監督を替えれば優勝する可能性は高いかもしれないが、万年最下位のチームはそもそも戦力が弱く、戦力を補強しないと優勝は狙えない。

政策手段における戦力補強が財政ファイナンスや円安誘導だとすると、それはやらないと言っている。そのこと自体は、私は正しいと考えるけれども、優勝するぞと目標を掲げただけで優勝できるものではない。ファンの期待は高いが、シリーズが始まって「実際は大したことないな」となると、そういう立場の監督はつらいのではないか。

──日銀が取ることのできる手段として、何が残されていますか。

満期までの残存期間の長い国債をもっと大量に買う、あるいは、日銀の準備預金の金利を撤廃するくらいの手段しかない。それらが異次元の金融緩和なのか疑問だ。REIT(不動産投資信託)やETF(上場投資信託)などのリスク資産を買うことも考えられるが、それらのマーケットは非常に小さい。日銀がそれらの資産を大々的に買うことがもたらす帰結を考えると、不安になる。

白川方明総裁の日銀を批判してきた人も、だんだんと現実の制約を考慮せざるをえなくなり、白川日銀とさして違いのない手段しか取れないだろう。副総裁となる岩田規久男・学習院大学教授は「準備預金の残高を80兆円まで増やせば、インフレ期待は2%まで高まる」と述べているが、本当にそうなるか結果を見守りたい。その後もお手並み拝見といきたいところだが、実験場のど真ん中で生活しているような立場なので、いつまでも傍観者ではいられない。

特に、やらないはずの財政ファイナンスに結局、ずるずると陥っていかないか危惧している。

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