金融政策だけで「デフレ脱却」はできない 池尾和人・慶応義塾大学教授に聞く

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──インフレ期待の議論の何が問題なのですか。

デフレから脱却した将来において物価水準が必要以上に高くなることを日銀が放置する、と人々に信じ込ませることができれば、インフレ期待を高めることができる、という議論がある。しかし、少し考えれば、そんな無責任な政策を日銀が取ることはありえないとわかる。

池尾和人(いけお・かずひと)
慶應義塾大学教授

1953年生まれ。京都大学経済学部卒。経済学博士。京大助教授などを経て現職。ミクロ経済学的視点からの金融制度分析を専門とする。著作に『現代の金融入門【新版】』『開発主義の暴走と保身』など。

根拠のない、いわば偽薬(プラシーボ)のような政策であっても効くことは、一時的にはありうるかもしれないが、持続的なものではありえない。多くの人を一時的に、あるいは少数の人を長期間だますことは可能でも、多くの人を長期間だまし続けることはできないからだ。

デフレとは、物価が持続的に下落することだ。しかし、デフレ脱却のために、とにかく物価が上がればよいのかというと、そうではない。世間でいうデフレ脱却というのは、景気がよくなることを指している。賃金が上がらないのに物価は上がるのは困る、というのが一般的な考え方だ。

物価指数で除した賃金を実質賃金というが、金融政策で仮に価格の持続的な下落を止められたとしても、金融政策だけで実質賃金を引き上げることはできない。

──アベノミクスは「次元の異なる金融政策」を標榜しています。

日銀が財政赤字の穴埋めをする「財政ファイナンス」や、意図的に為替レートを円安方向に持っていく「円安誘導」は、確かにこれまでとは次元の違う金融緩和政策でありうるが、その本質は金融政策というよりは財政政策、為替政策に近い。

しかし、次期日銀総裁に就任する黒田東彦(はるひこ)氏は「財政ファイナンスはやらない」「為替誘導もしない」と述べている。財政ファイナンスも為替誘導もなしで、異次元の金融政策といって何をするのか、私にはよく理解できない。

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