ブリンさんは米司法長官のライター時代、3年間でほんの短いものも含めて数百本の原稿を執筆したそうだ。ちょっとした挨拶であってもプロの手による美しいスピーチを楽しんでもらいたいということだろう。もちろん、コンテンツだけでなく、プレゼンター自身も練習や場数を重ね、デリバリー力を徹底的に鍛え上げることも必要だ。
「パブリックスピーキングとはすなわち、夏フェスである」。これは、日本人で唯一の本物のスピーチライター、と筆者が尊敬するある人物の言葉だ。事情があり、その名は明かせないのが残念だが、彼曰く「わざわざ、チケットを買って会場に足を運んでくれた人に共鳴作用を起こして興奮と感動を届けるライブのコンサートと同じ」なのである。手間暇かけて作り上げた歌と、練習を積んで見事に歌い上げる歌い手。この二つがそろって初めて聞き手の魂をゆさぶることができるというわけだ。
ブリンさんも「優れたライターであり、コミュニケーションへの情熱を持った人」というゴーン氏との二人三脚で、モーターショーなど数々のプレゼンを成功させてきた。筆者もゴーン氏のモーターショーでのプレゼンをこの目で見たことがあるが、確かにその振る舞い、存在感は圧倒するものがあった。決してネイティブスピーカーの英語というわけではないが、語り口は力強く明快。眼前のスクリーンの原稿を読んでいるのだが、全くそう感じさせない。新型車からさっそうと降りてくるシーン、ステージ上を自然に動きながら話すシーンなど、風格ある役者のようにこなしていく。つまるところ、パブリックスピーキングとはコンサートや演劇の「舞台」の場なのである。話し手はその「主役」を演じ切らなければならない。一流のシナリオ、一流の役者がそろって、感動は作られるのだ。
最強のスピーチ・プレゼンコンテンツの作り方
それでは最後に、ブリンさんの「最強のスピーチ・プレゼンコンテンツの作り方」の3つの秘訣をご紹介しよう。
① 魔法のストラクチャー
スピーチやプレゼンには、いくつものストラクチャー(文章構成のパターン)があるが、その中でも最もアピール力・説得力の高いものが、Problem-Solution型。最初に「こういった問題があります」、「それに対する答えはこうです」と展開していく。
② 言葉で絵を描こう
抽象的な言葉を連ねるのではなく、逸話やパーソナルな経験談などを交え、聴衆の頭の中に内容がビジュアルで浮かび上がるように、「見せて」いく。
③ Call to Actionで終わらせる
スピーカーとして、聞き手に喚起したいアクションをパンチのあるメッセージとして用意し、最後に行動を呼びかける形で締める。
いかがだろうか。人の持つ多くのスキルがAIに置き換わっていく中で、これからの皆さんのサバイバルのカギとなるだろうパブリックスピーキング力。ほんのちょっとした気づきで目覚める力でもある。ロボットとの戦いに勝つその内なるフォースに覚醒を――。日本人オリンピック選手の「フォース」の活躍に目を見張りながら、次なる2020年に向けて期待が高鳴るこの頃だ。グローバルの視線が日本に集まるこれからだからこそ、その魅力を伝える「パブリックスピーキング力」の重要性はますます高まっていくに違いない。
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