広告ができるのは「たった2つのこと」だけだ 感情に訴える以外は効かない

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──感情に訴えかけるものを作るには、“感動できる才能”が必要ですか?

感動とは簡単にいえば「共感」なんです。話す側の物語と聞く側の心の中にある物語が触れ合って生まれる共振作用、それが共感です。「わかる」とか「私も同じ」って思うこと。感動のベースは、共感にあります。

僕は脳科学が大好きで色々と勉強したんですが、人類は共感することを気持ちいいと思う(=感動する)ようにプログラムされているんです。そして、同じものに接して同じものを「好き」と感じるもの同士が、グループをつくることで生き延びてきた。だから、人類にとって、「好き」という感情はとても根源的で大切なものなんですね。

もう一つの「尊敬」も根源的です。グループが生き延びるためには優れたリーダーによる統率が必要になる。ですから優れたリーダーを見つける仕組みとして「尊敬」という感情が生まれたんです。これがやはり重なりあうことによって、グループにとって最適なリーダーが決まるんです。

広告やブランディングはそれらの原理を応用したものと言えます。共感を生む物語をつくるのは一見、特殊な能力のように見えますが、実はそれほど難しいことではありません。人それぞれはみんな違っていて個性的なように見えますが、実のところ根っこのところでは、ほとんどの人は「同じ」なんです。みんな違う人生を生きているように見えて、それでもみんなで共感できることはたくさんある。それに気づく力が重要なんです。

自分のなかにある一番強いもの

──具体的にはどう「同じ」なんでしょうか?

例えば、ヒットした多くの日本映画や音楽は、主要な登場人物が高校生で、時季は夏休みで、舞台は港町、というパターンが多い。これ、半分、僕の思い込みですけれど(笑)。でも「確かに多いかも」って思いませんか。つまりこれは、これらの設定の中により多くの日本人が共感できるポイントがあるということなんです。

映画製作者や歌手は、たぶん直感的にそのことを知っているんだと思います。ただ、ここで大切なのは、そういうクリエイターは特段みんなにウケることを狙って書いているわけではなく、自分のなかにある一番強いものを書いているだけだ、ということです。それが世の中の人とシンクロした人が、アーティストとして成功者になる。

クリエイティブの熟練者は、自分がいかにみんなと同じかをよく理解しているんだと思います。このことは、ホイチョイ・プロダクションズの馬場康夫さんも同じようなことをおっしゃっていて、日立製作所に入社した当時、かなり尖って「俺はお前らと違うんだ」という意識で企画を出していたそうです。その時に上司の方が「馬場君、君は他人と自分がいかに“違う”かを考えているけれど、大切なのは、自分がいかに他人と“同じ”かっていうことなんだ」と話してくれたそうです。それが馬場さんの転機になったそうですが、僕もまったく同感です。

僕が企画する時は、自分のことしか考えないんです。例えば「水」という商品を担当するなら、自分の人生において最も印象的な「水」体験とは何か、「クルマ」を担当するなら、クルマについて一番心を動かされた経験は何だったのか、というように。その次に、それらがどれくらいみんなと共有できるか、についてを考えます。自分にとっての特殊体験だと響きませんからね。そして、その共有の規模・面積が大きければ大きいほど、作品としての成功が大きくなります。

──思いついたアイディアを客観的に見る時はどうしているのですか?

仲間に話します。いいアイディアを話している時って、みんな黙って聞いているんですよ。反応を見ていて良ければ「よし、いけるな」となりますし、みんながあんまりピンときていなかったら「ちょっと違うのかな」と再考に入ります。ですから、最低でも2人で考えることが大切ですね。

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