広告ができるのは「たった2つのこと」だけだ 感情に訴える以外は効かない
海外では、クリエイティブのメソッドはもっとはっきりしていて、体系化されている気がしました。企画書も明快で、なぜこのアイディアになるのか、どこがいいのか、がわかりやすい。そういう体系的な考え方を自分なりに取得することで、過去のカンヌ受賞作を自分で分析できるようになりました。そうしたら俄然面白くなりまして、どんどん優秀な作品を観て、自分の中で方法論を整理していったんです。
プレゼンのスタイルも欧米と日本でまったく異なります。欧米の人は相当下手な人でも、日本人の平均よりはかなり上手い。特に上手い人は、スティーヴ・ジョブズみたいに魔法をかけるようなプレゼンをする。そういう場面をたくさん見たので、まずはプレゼン力をつけようと思いました。説明する、のではなく、感情を動かす。左脳的な理解を得るのではなく、泣かせたり、笑わせたりすることそのものが大切なんだ、ということを知って、プレゼンを研究したんです。
そうしたら、負けっぱなしだった競合プレゼンで、いつのまにか勝てるようになっていました。優秀な会社から学び、ノウハウを取り入れたことで、僕たちもドリルでいい企画が量産できるようになったんです。
──日本の広告業界とは違う仕組みなんですか?
違うようで同じだな、と思うこともあります。日本の優秀な人たちと一緒にやっていると、最終的にはとても似ているんだな、と感じます。ただ、日本では「オレの背中を見て覚えろ」という感じが強い。でも、別のルートで、もっと合理的に仕組みを獲得することもできると思います。「企画」とは何か、という全体構造を理解して、そこから細部に入っていくようなアプローチとでもいいましょうか。
──プレゼンの方法はどうやって研究したんですか?
海外の会社が作ってくる企画書が、自分が今まで見てきた資料や表現とかなり違っていたんです。ですから、読み込んで研究しましたね。自分が聞いていて「いいな」と思ったところを真似るところから始めていきました。
感情に訴える以外は効かない
──原野さんの映像作品には、感情に訴えかけるものが多いですよね。それは意図してやっているのでしょうか?
感情に訴える以外は効かない、と思ってやっています。
広告にできることは、「好きにさせること」と「尊敬させること」の2つだけ。クライアントさんからはよく「商品のこの機能を説明したい」などと言われるのですが、説明できたとして、それで買うか?というと決してそうではない。理屈なく好きにさせてしまった方が行動に影響を与えることが簡単になります。
「森の木琴」という作品は、「木っていいよね」というメッセージを届けることだけに全体の99%を集中させています。でも、みんなが愛したくなるような映像を見せたあとで、そっとロゴや商品を提示すると、みんなそれに向かって拍手をしたくなる。最後に2枚文字だけのスライドが出てくるのですが、そこにクライアントが説明したかったことが書いてある。その2枚のスライドをみんなが泣きながら見てくれる、っていうことが重要なんです。そのスライドだけを見せてもみんな通り過ぎてしまうし、その内容を面白おかしくCMしたところでたいして残らない。感情に訴えないと、好きになってもらったり、尊敬してもらったりすることはできないんです。