広告ができるのは「たった2つのこと」だけだ 感情に訴える以外は効かない

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──現代はソーシャルメディアで共感の輪が広がっていきますよね。広告は国境や言語の壁も超えていくのでしょうか?

超えますし、超えるべきだと思っています。僕は、普遍的な共感を目指したいと考えています。

──近年は共感のマーケティングという言葉も聞かれるようになってきました。原野さんが「共感」を意識したのはいつでしょうか?

言語化したのはこの1、2年ですが、脳のことに興味を持って考え始めたのは、それよりもずっと前のことです。僕は原理主義者で、あらゆることに対して常にその原理を探求したいんです。どうして感動するのか、なぜこれは良いとされているのか。曖昧な事象を形式知にしたい。

──広告はクライアントがいる仕事です。NTTドコモの「森の木琴」のように、やりたいことを理解してくれる企業は多いですか?それとも、理解してもらうためのプレゼンが大事なのでしょうか?

最初から理解してくれる企業は少ないです。ですから、理解してもらうための技術も必要ですし、どうしてもわかってもらえないところからは逃げることもあります(笑)。つまり、そこで消耗し過ぎないようにする。

──もっと機能の説明を入れてよ、っていう要望は出てきますよね。

説明を尽くすんですけれど、実際にはそういう要望が多いですね。

ただ、クリエイティブの企画がわかるかどうかって、比喩的に言うと「宗教的な問題」の側面も強いんです。つまり、クリエイティブのことがわからないって言う人は、ロジックや戦略を左脳的なものだと捉えていて、クリエイティブを右脳的な発想だと考えています。だから、あなたが考えた右脳的なものを私がわかるように左脳的に説明してくれ、とおっしゃったりするんですね。でも、それは「左脳的に説明されたものこそが正しい」と信じている宗教に過ぎない。しかしながら、広告が一番効くのは、そういう説明ができない感情的な部分なんです。そこを信じられない人は広告の仕事をやってもうまくいかない。

多くのクライアントが左脳的な説明にこだわるのは、「上司や他の部署に説明するため」だったりします。そこへの説明をわかりやすくするために、企画が少しずつぬるくなっていく。こういう現場をよく見かけます。これを避けるために僕が実践しているのは、「社長さんにプレゼンすること」。それでほとんど解決します。説明のための説明が不要になるから。

知恵とセンスとアイディアがあれば

――今のネットの面白さって、どこにあると思いますか?

インターネットは、おカネでコントロールできませんから、知恵やセンス、アイディアで勝負しないと君臨できません。ただ、裏返して言えば、知恵とセンスとアイディアがあれば君臨できるんです。

糸井重里さんは長年、ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営されていますが、かつてテレビで「YOU」の司会をやっていたとき以上の影響力をお持ちだと思います。でも、それはおカネの力ではありません。知恵とセンスとアイディアの力です。

──最後に、原野さんはOK Goのミュージックビデオ(MV)を手がけたことでも知られています。MVも広告の一種でしょうか?

MVはアーティストや曲を売るために制作するものですから、広告の一種でしょうね。でも、商業性が薄い、純粋な表現に近いものだとは思います。

僕、実はMVをつくるのはOK Goが初めてだったんです。この映像は、OK GoからするとMVですけれど、制作資金はすべてHondaが出していて、Hondaにとっては、新しい形の広告という側面があります。

HondaとOK Goのビデオをつくる上で一番避けたかったのは、資金提供の見返りとして商品が不自然に登場するようなやり方。OK GoのMVにはHondaの「UNI-CUB」が登場しますが、あれは販売している製品ではないんです。Hondaの新しい技術がつまったプロトタイプなんです。あくまでMVのアイディアを構成させる要素として登場しています。だから、必然性がある。

「UNI-CUB」がなかったら、あのMVは存在していない。人間ひとりひとりの歩幅や動くスピードは違いますから、みんなが「UNI-CUB」に乗ることで、初めてマスゲームが「プログラマブル」になったんです。Hondaは資金提供者でもあるけれど、カメラマンや照明さんと同じようにスタッフの一部でもある。そういう考え方で制作されたので、いやらしくないし、観た人もHondaを尊敬できると思うんです。

(文: 石井 俊昭、写真:湯浅 亨)

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