消費増税延期でも「赤字減少」試算のからくり ますます気が抜けない「財政健全化」への道

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今年1月改訂の「中長期試算」では、2020年度の基礎的財政収支は6.5兆円の赤字と試算されていた(経済再生ケース)。これは、消費税率を2017年4月に10%に引き上げる(ただし、軽減税率導入は織り込む)ことを前提とした試算である。これに対して、今年7月改訂の「中長期試算」は、消費税率の引き上げを2019年10月に延期することを前提として試算した結果、2020年度の基礎的財政収支は5.5兆円の赤字と報告された(経済再生ケース)。

消費増税を延期しても赤字は1兆円も減少したのは、経済成長が促されたからで、増税など収支改善は不必要だ、との見方がある。これは、数字に疎い能天気な見方である。

消費増税延期による収入への影響

「中長期試算」を精査しよう。収支の改善は、収入の増加と支出の減少に要因分解できる。今年1月改訂版と今年7月改訂版の「中長期試算」を比較した筆者の推計は次の通りである。2020年度において、収入側の国と地方の税収等合計は、1月試算では167.4兆円、7月試算では166.7兆円と、実は0.7兆円減少している。

これにこそ、消費増税延期の影響が含まれる。消費税収は、納税時期の期ずれの影響もあって、新税率になってその税率で満額の税収が入るようになるには、税率を変更してから1年半後になるとされる。その間は、新税率の納税と旧税率の納税が混在することになる。消費税率を10%に引き上げるのが2019年10月となると、10%の税率で満額の税収が入る(満年度化ともいう)のは、2020年度ではなく、1年半後の2021年度からとなる。1月試算では、2017年4月に10%に引き上げることを前提としていたから、2020年度はすでに満年度化した後とみた試算だった。

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