1月試算と7月試算の違いは、2015年度の歳出抑制の実績を確認したことで、歳出の試算額の「発射台(試算初年度の額)」が約1兆円減少していることと、2017年度の歳出抑制の方針を反映した試算になっていることである。1月試算では、2017年度の予算編成方針が未定であるため2017年度以降の追加的な歳出抑制は含んでいない。これらの影響が主たるものとして、2020年度の歳出は、1月試算より1.7兆円少ないと見込まれ、先のような結果となった。
要するに、消費増税を延期しても2020年度基礎的財政収支赤字が1兆円減少したのは、緊縮財政にせず経済成長が促されるからではなく、歳出抑制を既定方針通り着実に進めるから、である。いうまでもなく、2020年度には消費税率は10%になっていることが大前提である。
取らぬ狸の皮算用にならないか
そういえば、本連載の拙稿「内閣府がひた隠す2020年度収支のカラクリ 赤字額9.4兆円から6.2兆円に『急減』のナゼ」で、昨年同時期に同じような内容で「中長期試算」について言及した。
昨年8月の拙稿では、2020年度の基礎的財政収支改善の要因は、税収増が1.4兆円、歳出抑制が1.8兆円で、3.2兆円もの赤字減少となったことを述べた。それと、今年を比較すれば、歳出抑制は昨年と同程度の効果が確認できるが、税収等は消費増税再延期の影響が出てむしろ収支悪化要因となっている。このことからもわかるように、歳出抑制を継続して行うことは収支改善に欠かせない。別の言い方をすれば、消費増税を先送りしたため、2020年度の基礎的財政収支の改善は1兆円「もできた」ではなく、1兆円「にとどまった」と言えよう。
歳出抑制の効果には、経済財政諮問会議も目をつけているが、「取らぬ狸の皮算用」ではいけない。7月の「中長期試算」が公表された同日の経済財政諮問会議では、「2020年度の財政健全化目標の実現に向けて」と題した資料が提出された。そこには、2020年度の目標達成のためには、まだ残る基礎的財政収支赤字5.5兆円のうち、4兆円台後半(4.5~5兆円)はこの歳出抑制で赤字を減らすことができる、と記されている。
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