過酷な戦場を生き抜く「娼婦」の意外な実態 単なる「陰」の存在にとどまらない

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──タイでは農村から都会へ出稼ぎに行ったが、エイズらしき病気にかかった一人の女性の悲哀についても取り上げています。

今、彼女が生きているかどうかはわからない。もとはバンコクの華やかなカラオケ店で働いていたが、病気をもらって田舎のイサーンへ帰っていたときに出会った。2年後に再び訪れたとき、すでに亡くなっていると思っていたら、年老いた母親が生きていると言う。ラオス国境の田舎町まで会いに行くと、豆電球がチカチカ光っているような場末のカラオケ店で働いていた。実家でただ飯を食うわけにはいかず、病気になっても死ぬまで体を売る場所を探すしかない。あの境遇は衝撃的だった。

底辺から抜け出すための売春

『娼婦たちから見た戦場』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

──農村で自給自足の生活ができたかもしれないのに、経済発展が悲劇を生んでしまったのですね。

都会に出ればおカネを稼げることがわかると、今よりもいい生活を送りたい気持ちが当然強くなる。それが原動力となり、娼婦が大量発生している。社会の底辺から抜け出す一つの手段として、売春があるのは間違いない。

10年にバンコクで武力弾圧事件が起きたときも現地にいたが、半独裁民主戦線であるタクシン派の多くは農民だった。農村地のイサーンは売春婦のみならず、労働者の供給地ともなっている。タクシンが大人気で応接室に写真を飾っている家が多くて驚いた。激しい政治運動も貧困から生まれていることを感じた。

──中国では纏足(てんそく)の女性にも取材しています。世間的にはかわいそうな存在と受け止められていますが、彼女たちの写真は美しい。

今では纏足など絶対にとんでもないが、封建制の象徴として服装や様式美といったものが生み出されたとの見方もできる。80歳以上の女性ばかりだから纏足がなくなるのは時間の問題だし、ぐるぐる巻きにされた小さな足はそうとう痛そうだった。それでも彼女たちは、自分の足はきれいというプライドを持っていた。

──社会が変わると、女性の生き方も大きく左右されますね。

国家ができて男が社会をまとめだすと、家や財産を守るためにシステムを作りたがる。国家や軍隊、階級を男が操る過程で、売春が職業として成立してしまう。それが娼婦を生み出す土壌となっている。

前田 佳子 東洋経済 記者

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まえだ よしこ / Yoshiko Maeda

会社四季報センター記者

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