そこで、少しでも高く売れる肉にするため、最初からホルスタインに黒毛和種の種をつけて、半分黒毛の血が入るようにした交雑種(F1ということもある)を作ることも多い。ホルスタインと黒毛の交雑種は、小さい頃は茶色だが、大きくなると完全に真っ黒けになることが多く、体格がいいのでかなりの威圧感がある。肉は、黒毛並みとまではいかないが、純粋なホルスタインよりは高く売れる肉になる。
またホルスタイン以外の乳用種が日本には数種いる。ジャージー、ブラウンスイス、エアシャー、ガーンジィなど、日本ではごくわずかにしか存在していない品種がいるのだ。そうした牛にオスが産まれてしまった場合、やはり肥育(食用の目的で太らせること)して肉にすることがある。こうした場合も「国産牛」として販売される。
同じくらい希少だが、和牛以外の肉専用種、たとえば世界的に有名なアンガス牛やシャロレー牛といった海外の品種を育てている生産者もいる。そうした肉はたいてい、生協組織などの契約取引をされているケースが多いので、あまりスーパーには並ばない。もしスーパーなどで販売される場合は、やはり国産牛表記で販売されるはずだ。
「黒毛和牛」は圧倒的に多く生産されている
さてこの記事の核心といえる部分に入ろう。日本では「黒毛和牛は高級」というイメージが確立されている。確かに先ほどまで解説したどの肉用牛よりも黒毛和牛が最も高値で販売されるので、高級というのは正しい。ただ、たまに首をかしげてしまうのは「希少な黒毛和牛」というような紹介の仕方をしているのを見かけることだ。
黒毛和牛は希少ではない。というより、日本で最もありふれた肉用種である。これは日本で肉になっている牛の割合を品種別に表したものだ。数年前の状況から変わって、今、最も多く生産されているのは乳用種のホルスタインだが、それとほぼ同じ割合で、肉用種の中では圧倒的多数となっているのが黒毛和牛なのである。
これを見てどう思うだろうか。黒毛和牛って価値の高い、とても希少な肉なんだと思っていたらまったく逆で、いちばんありふれた肉用種だった、ということになる。まあ、それは言い過ぎかもしれないが、おそらく黒毛和牛は希少な高級品、という世間一般のイメージとはちょっと違うのではないだろうか。そして、もうひとつ驚くポイントがある。それは、黒毛以外の和牛品種の頭数だ。
いろいろな品種の名前が並んでいるが、そのほとんどのパーセンテージが1%とか0%台である。なんと、先に誇らしく「和牛は黒毛だけじゃない」と紹介した褐毛や短角、無角たちがここに押し込められているではないか。これら黒毛以外の和牛品種を全部合わせても、全体のたった2%に満たないのである!
僕から見たら、本当の意味で希少で価値の高いのはこの頭数が少ないほうなんじゃないの?と思ってしまう。
なぜこんなことになってしまったのか。そして黒毛和牛が今どのような問題を抱えているのかを、次回以降で書いていきたい。
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