田中:では、3つ目のお話をお聞きします。スポーツ選手は引退後を踏まえて、現役時代に何を「資産」として獲得しておくべきだと思いますか?
30歳で引退して、いきなりビジネスができるのかというと難しいですし。逆にビジネス側の人間からすると、30歳で引退して、いきなりスポーツはできないわけで。
為末:選手のセカンドキャリアは日本だけではなくて、どの国でも問題になっています。引退後の人生をどう生きるかが難しい。
ただ、日本はほかの国よりもセカンドキャリアが築きにくい面があります。なぜなら、スポーツ選手が現役中にほかの仕事をする、つまりデュアルキャリアに対して、抵抗感が強いからです。たとえばオリンピック選手が「会社も経営しています」と言うと、「おまえ、オリンピックに集中しろよ」と言われてしまう(笑)。
田中:確かに(笑)。
為末:ほかの国ではそういう人、結構いたりするんですけど、日本では現役中は競技のことだけをやれ、という空気があって、実際に指導者もそう言います。で、引退すると、いきなり次はどうするんだと言われる。
僕が現役時代に言われていたのは、「陸上を一生懸命やっていれば、必ず社会で生きていく能力が鍛えられる」という言葉です。それは引退した今、考えると、3分の1は本当ですが、3分の2はウソなんです。そんな簡単じゃない。まあ、メンタルの深い部分ではそうかもしれませんが。
日本では「一意専心」をよしとして、2つのことを同時進行することを受け入れない風土があります。これではセカンドキャリアの問題は解決しません。スポーツしながらビジネスの勉強はできるかもしれませんが、経験を積むことができない。僕は何事も経験でしか学べないと思っています。
でもいちばんの問題は、スポーツ界にいる人たちの意識でしょうね。スポーツだけに専念していたら、引退後に困ると早く気づいて意識改革しないといけない。
※ 対談の続きは2月19日(火)に掲載します
(構成:上田真緒、撮影:梅谷秀司)
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