為末:協会はどちらかというと僕らに近いと思います。というのは、協会の数字を見てもあんまり儲かっていないので。もっと儲けられる仕組みを作れるはずなんですけど。
いかにリアルの試合をお客さんに見に来てもらって、リアルでおカネが動いて、間に入る組織がなるべく少ない状態にして、選手におカネが多く入ってくるようにするか。そこが最大の課題だと僕も思います。
ただ、日本のスポーツ協会は基本、学校の先生で構成されていて、極めてエンターテインメントから遠い世界の人たちが運営しているんです。だから試合がめちゃくちゃつまらない。僕は世界中で陸上の試合を見てきましたけど、たぶん日本の試合がいちばん面白くないですね。
安全面は非常に配慮されていて、効率よく進行して予定に滞りがないんですが、見ているお客さんにとっては、「よーい、ドン。はい、次。よーい、ドン。はい、次」って。つまらないですよね。
田中:日本の陸上はまじめにしなきゃいけないという空気があるんですか?
為末:あると思います。
田中:ボルトみたいにポーズを取ったら面白いのに、なんか日本人はやっちゃいけないような。
マラソンはエンタメ的なところから発生した
為末:その空気をたどっていくと、最初にお話しした、日本のスポーツは楽しむためではなく、教育的な目的から発生したことにつながっているからでしょうね。協会にいる学校の先生たちは、選手にどういう学びを与えていいかはわかるんですが、どう楽しませていいかわからない。
そもそも、日本陸連(日本陸上競技連盟)は競技をレジャー化したくないんです。世界で戦うために、ないしは教育のためにスポーツがあるので、世界で戦える年齢を過ぎた人たちを陸連の管轄外にしている。35歳以上の人をマスターズという別の領域に入れて分けてしまっている。
で、その人たちが主な層のマラソンという競技が出てきました。最初、マラソンは陸連に登録しないという前提で進めていたんですが、マラソンの競技人口が日本陸連に所属している人数よりも圧倒的に多くなった。マラソンは600万~700万人で、陸連は30万人です。
本来なら陸上の試合は日本陸連に登録しないと出られないのがルールなんですが、マラソンだけは登録しなくてもいい唯一の陸上競技になっている。だからマラソンをする人たちは自由にやってよくて、ルールも比較的自由に作れた。それで人がたくさん集まってワーッと発展した。つまり、マラソンはエンタメ的なところから発生しているんです。
もし協会がマラソン競技の設計にかかわって、登録選手から年間数千円をいただいて、それで保険をカバーし、いろいろな大会に出やすいモデルを作っていたら、仮に100万人が登録しても、ものすごく大きな財源になっているはずです。でもそういう仕組み作りをしていない。
田中:今のお話を伺うと、協会は儲けたくても儲けられないというより、儲けるつもりがあんまりないんですかね?
為末:ええ。僕は個人的には試合の運営を民間にどんどん振っていくといいと思っています。民間企業が陸上の試合を運営すると今より面白くなるんじゃないでしょうか。
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