ケースは、2000年代初頭に起きた「国後島の発電設備工事の不正入札疑惑」「ディーゼル車の排気微粒子除去装置(DPF)データ捏造事件」で逮捕者を出した三井物産が、どう会社の危機を乗り切ったか、という内容だったという。
「試験が終わってから、クラスメートが私のところに集まってきて、質問攻めに遭いました。『Trading Company(商社)ってそもそも何をする会社?』って聞く同級生もいましたね。思ったより、日本企業が知られていないことがわかりました」
試験数日後には、サプライズもあった。ケースの当事者である三井物産の槍田松瑩(うつだ しょうえい)会長が、ダートマス・タックに来校し、講演会が行われたのだ。槍田氏も1969年に同校に留学した経験を持つ。
三井物産とダートマス大学との関係は、今から100年前にまでさかのぼる。三井小石川家9代目の三井高修(たかなが)氏が、ダートマス大学に留学したことがきっかけとなった。1915年に同校を卒業後、高修氏は2人の息子もダートマスへ留学させ、三井家とダートマス大学との関係は続いた。
三井物産は、過去50年以上にわたって同大学へ留学生を派遣し、2011年には300万ドル(2億7000万円)もの金額を寄付。「三井冠教授基金」を設立した。三井冠教授は、日本の政治・経済・歴史などについて講義を行い、ダートマス大の学生が日本への理解を深めることに貢献する。
深い関係で結ばれた三井物産とダートマス大学だが、タックに入学したばかりの学生は、そんなことは知る由もない。
当時、CEOとして危機に対峙した経験について熱弁を振るう槍田氏に、学生から容赦ない質問が飛んだ。質問は、三井物産の危機管理から、日本企業の仕組みにまで及び、特に終身雇用について、質問が集中したという。
「槍田会長は、三井物産の掲げるよい仕事とは、『社会から必要とされ』『三井物産の力となり』『自分自身が一生を費やしても悔いがない』仕事のことだと話されました。よい仕事の3つの定義の中に、「自分自身が一生を費やしても……」という内容が入っているのは、日本企業ならではであり、一生働く前提で会社に入ることがあまり多くないアメリカ人にとっては新鮮だったようです」
この講演会のあとも、再び、清水さんは学生たちから質問攻めに。
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