ポケモンGOの日本上陸で現実世界に漂う不安 「過信」が重大な社会問題を生むかもしれない
人の行動には、ある一定条件の組み合わせが影響を及ぼす。組み合わせのブレンドによって発されるエネルギー(運動)は、良い結果も悪い結果も生む。お酒が好きでないと当てはまらない一例かもしれないが、「ビールと枝豆」という組み合わせをイメージしてみよう。この場合、お互いの存在が引き立て役になって、ビールも枝豆も美味しいという相乗効果を発揮する。
ところが、スマホの操作と歩く行為はまったく相乗効果を生まない。スマホは歩く行為を支援するデバイスではないし、歩くことによってスマホの操作が楽になったり、便利になったりもしない。いわば、最悪の組み合わせといえる。
もともと歩く行為とスマホの操作という組み合わせは、一般的に「歩きスマホ」といわれている。東京消防庁によれば、2010年から2014年の5年間で徒歩や自転車で移動中にスマホを使っていたことが原因で、救急搬送される事故に遭った人は152人にも上る。これは極端だが、こうした統計に表れていなくても転倒、接触、衝突などの人身・物損事故につながり、それが原因でトラブルになっているケースは山ほどあるだろう。
歩きスマホにはスピード違反や電車やバス内での携帯電話使用、人ごみでの喫煙などと同様の共通点があると考えられる。「理性を働かせれば防げる」という側面がありながら、「自分だけは大丈夫」と考えてしまう。本音では「自他ともに危険だったり迷惑だったりする」と知っていながら、自制心では制御できない「過信」がそれを振り払う。
過信というモンスターが登場すると、歩きスマホもついついやってしまう。しかも一度成功すると「次も大丈夫だろう」と「進化」してしまう厄介者だ。ポケモンGOは事実上、歩きスマホを助長してしまうアプリともいえる。だから米国やオーストラリアなど先行配信された国で社会問題を引き起こしてしまった。日本でも同じようなことは、十分に起こりうる。
モンスターを撃退するメッセージ
この過信というモンスターを撃退する方法はないのか。その一助となる研究が進んでいる。筑波大学の谷口綾子准教授のチームが発表した「どのような人に、どのようなメッセージが効くか」という研究だ。
これは、電車内マナー遵守行動とマナー啓発メッセージの関係性を調査したものだが、特に歩きスマホのマナーを守ることがわずらわしいと感じている人には、【お願い】【呼びかけ】のメッセージがマナー啓発に逆効果であることが、アンケート結果において示されたという。
では効果のあるメッセージとは何だろうか。それは【被害の付加】だ。具体的に「歩きスマホ」をすることで受ける「被害」を伝えるのである(第11回 日本モビリティ・マネジメント会議より引用。本会議の公表は数カ月先となる見込み)。
単に、罰則や報酬を設けるだけでは、そもそもの解決に至らないのかもしれない。そして、よく見かける「注意喚起」の広告では、過信というモンスターには太刀打ちしにくい。【被害の付加】を事前に学ぶことで、私たち人間は、あらゆる社会問題を未然に防ぐことに期待を持つことができそうだ。
それでも、【被害の付加】を事前学習することで、すべての問題が解決されるわけでもない。本研究も途上であると思われ、さまざまな条件の組み合わせによって、社会問題を未然に防ぐ方法を私たちは考え抜かねばならないだろう。
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