(このひとに5つの質問)ヴォルフガング・ルッターバッハ ドイツ労働総同盟国際政策局長

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(このひとに5つの質問)ヴォルフガング・ルッターバッハ ドイツ労働総同盟国際政策局長

10月のG7財務相・中央銀行総裁会議でドイツは投資ファンド規制を訴えた。背景には企業買収の荒波にさらされた経験がある。投資ファンドとどう向き合うかを語った。(『週刊東洋経済』12月1日号より)

ファンドの監視には国を越えた枠組みが必須

1 ドイツではミュンテフェリング副首相がヘッジファンド(HF)やプライベートエクイティ(PE)の振る舞いを「イナゴの群れ」と呼び、監視や規制を強く主張しています。

 副首相がその発言をしたのが2年前。当時、支持は一部にとどまったが、状況は大きく変化した。保守系のメルケル首相が、ハイリゲンダムサミットで金融市場の管理改善問題を提起した。政府はPEの規制を強化する立法作業に着手している。政党や労組、メディアの間でも、共通してどうすれば「イナゴの群れ」を規制できるかという議論を深めている。

2 規制の考えが高まってきた背景は何でしょうか。

 やはり彼らの醜い側面を目にしたことが大きい。浴室・台所用品の世界的メーカー、独グローエは健全な財務体質を誇っていた。だが、2度にわたってPEに売却される中、キャッシュフローが枯渇し多額の負債を抱えた。結果、複数の工場を閉鎖し、5700人の従業員のうち1000人が退職に追い込まれた。

3 オフショア地域を本拠に置くファンドも多い。現実的に規制は可能でしょうか。また、米国や、同じ欧州でも英国は、別のスタンスです。

 難しい要求をしているわけではない。まずはHFやPEが上場企業と同様の透明性、報告義務を果たしてくれれば、かなりの効果を上げることができる。ビジネスプランや財務諸表が公開されていれば、買収された企業の従業員がインターネットを活用して新しい経営者は何者か、資産はどのぐらいあるのかなど、基本的なデータを入手して対応できる。それが第一歩だ。次いでこれ以上、税制面で優遇しないことも必要だ。米英とスタンスは異なるが、まずは英国を除いたEU26カ国で枠組づくりはできる。

4 最近は投資ファンドの姿勢も変わってきたようですが。

 2006年に買収されたKIONグループのケースでは、従業員が投資会社を選択する段階からかかわることができた。そのため、投資をする側も従業員を納得させるプランを提案せざるをえなかった。五つの候補者のうち最終的にKKRとゴールドマン・サックスが買収を行うことになり、既存の労働協約の継続や長期のビジネスプランの提示、数年間は海外に工場を移転させない旨を確約させることができた。

5 日本でも投資ファンドによる企業買収が相次いでいます。

 投資ファンドと対峙する際、従業員側には協調的な解決策などなく、基本的に闘いしかないという原則を忘れてはならない。彼らにとって怖いのは世論。従業員の要求を満たそうとするのも、それを学習したからだ。

(書き手:風間直樹 撮影:谷川真紀子)

Wolfgang Lutterbach
1953年生まれ、ボン大学卒業、フリードリッヒ・エーベルト財団に所属し博士号取得、イスラエル部門長、中東部門長を経て、2002年より現職。

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