なぜこうも違う?フィンランドの子育て支援 日本が子どもたちに投資しない根本的な理由

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フィンランド第2の都市タンペレ市で働く40代の女性に話を聞くと、彼女も2人の子どもを出産するときに育児パッケージを選択したそう。その箱を子どもたちが8歳と4歳になった今でも取ってあり、「彼らが大人になったら、思い出の箱としてプレゼントしたい」と語る。育児パッケージはフィンランド家庭の子育てに深く根付いた制度なのだ。

育児パッケージの中身はベビー服や哺乳瓶、爪切り、ブラシ、避妊具など約50点、金額にして4万円相当。高い税金の元で成り立つ高度な福祉国家ゆえの手厚いサービスに見えるが、単なる「プレゼント」ではない。その狙いは、妊婦健診の受診率を上げ、その後に続く家族のケアへとつなげることだ。育児パッケージまたは現金の支給を受けるには、妊娠154日以上であること、妊娠4カ月までに妊婦検診を受けていることが要件となる。妊婦健診は、自治体が運営する「ネウボラ」という施設で受けるのだが、このネウボラこそ、フィンランドの育児支援を大きく特徴づける仕組みだ。

日本では妊娠が確定して出産を希望する場合、自治体の窓口に届け出て母子健康手帳と妊婦健診の補助券をもらう。そして自身で選んだ病院で妊婦検診を受けるのが一般的だ。フィンランドの場合、妊娠の届け出もその後の検診もネウボラで受け付ける。そして担当の保健師が付き、妊娠・出産期だけでなく、出産後も子どもが6歳までの間、保健師、医師、ソーシャルワーカーなどによる専門チームが、健康面だけでなく家族関係や経済的な状況も含めて診断やカウンセリングを行う。先述の育児パッケージは、子どもを迎える家族をネウボラにつなげる動機付けとして考案された。これが功を奏し、現在は99%以上の家族がネウボラを利用している。

家族支援に力を入れるネウボラの位置づけ

ネウボラでそろって検診を受けるスティーブさん、パウラさん夫妻と6歳、4歳、1歳の子どもたち

ネウボラが誕生したのは1920年代。法制化された1944年以降全国に整備され、乳児死亡率や妊産婦死亡率を大きく引き下げるなどの効果を上げた。当初は母親と子どものケアが中心だったが、最近では父親や先に生まれたきょうだいも含む家族全体のケアへと、その支援の範囲を広げている。家族全員が一緒にネウボラに行く機会が出産前に1回、出産後は子どもが4歳になるまでに3回設けられており、アンケートやその場での対話を元に専門家が助言したり、さらなる支援が必要な場合には適切なサポートが得られる機関を紹介したりする。

フィンランドがネウボラによる家族支援の拡充に力を入れるのは、幼児期の子どもの育成環境と、それを支える家族の問題の早期発見、早期予防こそが、その後の子どもの幸福や社会全体にとっての効果が大きいと考えるからだ。

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