トヨタがスポーツカーに注力する新たな事情 「86(ハチロク)」を改良、レースの経験を反映

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スポーツカーは台数が出ないため、採算を取るのが難しい。多田CEは「ブランドの広告塔だから多少の赤字でも許されるのでは・・・」と考えていたが、貴島氏に会って冷や水を浴びせられた。

「量販車メーカーで、スポーツカーを作ることの大変さをわかっていない。一番やってはいけないのは景気の波で(スポーツカーの生産を)やめたり、始めたりすること。景気の悪化でやめてしまいファンを裏切るなら、最初からやらないほうがいい」と貴島氏は語ったという。

富士重工業との共同開発を経て、2012年に発売した86。だが、飛びついたのは、振り向かせたかった若者ではなく、かつての若者だった。

マイナーチェンジで価格帯は上昇

86の開発を担当した多田哲哉チーフエンジニア。これまで初代「Bb」や初代「パッソ」などの開発も担当。「純粋にエンジニアとして見ると、すばらしいのは圧倒的にポルシェ。工業製品のスポーツカーとして完成度は段違い」と語る

「残念だが予想通り、顧客の中心は40~50代だった」(多田CE)。それでも、限られていた予算をテレビCMには回さず、地道なファン作りの活動を続けていった結果、直近の購買者は20代から60代までほぼ均等になってきた。20代が一番多い月もあるという。

「他の車種に比べて少ないものの、きちんと利益も生み出している。それがスポーツカーを続けていくために重要なこと」(多田CE)。

では後期型の発売で、さらに若い層を取り込めるだろうか。価格面を見ると、前期型にあった199万円の「RC」というグレード(レース車にカスタマイズすることを前提にしたベース車)はなくなった。後期型の価格帯は262万円から325万円と、RCを除く前期型(241万円から305万円)からアップする。

「中身のアップグレードを考えれば、価格は上がっていない」(多田CE)と主張するが、20代や30代で簡単に買える価格ではない。それでも、後期型の投入によって、中古車市場に前期型が増えていくことは間違いない。手頃な中古車でスポーツカーの楽しみを知ってもらい、その裾野を広げていく。マイナーチェンジにはそうした狙いもある。

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