東京都知事を取り巻く「超複雑」な政治力学 参院選の次は新都知事誕生が焦点になる

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医療に関する国民健康保険(国保)は、これまで区市町村が保険運営の主体(保険者)だったが、2018年度から区市町村は引き続き保険料徴収と給付を行うものの、国保の財政運営の責任は都道府県に移されることになっている。この事務と財源をめぐり都と特別区の間でどうするかが問われる。

特別区長も、都知事に自らの要望を聞いてもらいたいという思いがある。しかし、都知事が特別区の要望を聞きすぎると、都の自由度が減って自分の首を絞めることにもなりかねない。新都知事は、特別区とどう良好な関係を築けるか。

東京都は、特別区部だけではない。多摩地区の市町からみると、特別区は優遇されているという思いがある。確かに、特別区部は、東京都の人口の過半を占める人口を有しており、税収がより多く上がる地域である。しかし、多摩地域の市町を冷遇すれば、多摩地域選出の都議会議員や首長がそっぽを向くことになりかねない。これからますます高齢化が進む東京で、医療や介護でも市町村の協力は欠かせない。協力関係を維持向上させるために、新都知事は多摩地域を見捨てるわけにはいかない。

どうする、地方法人税へのスタンス

東京都以外の国民からすれば、ここまでの話をご覧になって、税収が多く入る東京都内のぜいたくな争いで、東京以外の日本のことが蚊帳の外になっている、と思われるかもしれない。現に、その嫉視の思いが、政治の場で発露している。「東京富裕論」である。東京都だけが税収が多く増えて「豊か」になっている、という見方である。そして、その都度、東京都(都庁)は、「東京富裕論」に反論を出してきた。

消費税率を10%に引き上げる過程で、東京都をはじめとする大都市部の自治体はさらに税収増となる一方、農村部の自治体は税収があまり増えず、ますます税収格差が拡大するのではないか、との懸念が出された。これに対応して、東京都をはじめとする大都市部で集められた税収(法人住民税)の一部を、国が召し上げて、農村部の自治体に分配するという仕組みが導入されている。この仕組み(地方法人税)に、東京都は強く反対している。

新都知事はこれに関して、すでに決まったことで東京ばかりが潤ってもよくないから是認する姿勢を取るのか。東京都民が納めて東京都や都下の自治体に入った税収を国が召し上げるという仕組みは撤回せよという、従来からの立場を堅持するのか。

どちらを取るかを問われる。ちなみに、この仕組みで東京都が失っている税収は、公用車やファーストクラス運賃やスイートルームに費やした金額よりはるかに多く桁違いの金額である。

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