安易に「自由」を手放す選択をした英国民の愚 EU離脱の選択で失われた歴史的イメージ

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離脱派といってもさまざまだ。髪をそって国旗のタトゥーを入れたような典型的なナショナリストーー彼らはまるで暴力的で有名な英国サッカーのフーリガンのようだ。一方で洗練された紳士淑女が、かつてロックスターに夢中になったのと同じような恍惚状態でボリス・ジョンソン氏に喝采を送っていることもあった。そうした光景を見ると、やはり胸騒ぎを覚えてしまった。

今回、多くの離脱派にとってテーマは自由だった。これは英国が旧ナチスドイツに立ち向かった第2次世界大戦時と同様だ。ベルギー・ブリュッセルに置かれるEU本部は独裁政権であり、英国人は民主主義のためにそれに立ち向かっていると彼らは主張していた。

歴史の皮肉

EUは本当に単なる独裁政権なのだろうか。悲惨な戦争を繰り返すまいと、各国政府が討議を重ねて注意深く築いた機関である。それを破壊したところで、欧州人の自由が保障されるわけではない。

仮にBrexitを契機に欧州でエリートへの反乱が広がれば、自由の国の手本だった英国が反自由主義を先導することになる。これは悲劇以外の何ものでもない。

私たちの世代にとっては旧ナチスドイツこそが独裁政権の象徴で、憎むべき対象だった。しかし今回の悲劇の連鎖を食い止めるためには、あらためてドイツの役割が求められている。これは歴史の皮肉である。

週刊東洋経済7月16日号

 

イアン・ブルマ 米バード大学教授、ジャーナリスト

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Ian Buruma

1951年オランダ生まれ。1970~1975年にライデン大学で中国文学を、1975~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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