インドがラジャン中銀総裁退任で失うもの 改革の舵取り役を追いやったツケは高くつく

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訪米してオバマ米大統領(右)と会談するインドのモディ首相(左)。同国中銀のラジャン総裁退任後、経済政策の手腕が問われる(写真: ロイター/Jonathan Ernst)

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インド準備銀行(RBI、中央銀行)のラグラム・ラジャン総裁が、現在の任期切れを以て退任すると表明した。これまでインド経済の成長を歓迎してきた人々に衝撃が走った。同国のモディ政権とラジャン氏との間で軋轢が生じていたことは周知の事実だが、これほど明らかに国益を損なう行動にインド政府が出るとは、誰も考えなかった。

ラジャン氏は、徐々に金利を引き下げて物価安定を図るべきだと主張したが、政府は、金利を一気に引き下げ成長に弾みをつけたいと考えた。政府はラジャン氏の有識者としての側面を高く買っていたわけでもなかった。このような背景から、数週間前に突然、政府筋からばかげた批判が噴出した。ラジャン氏は「インド的」ではない、とこき下ろしたのだ。

さまざまな事情はあるにしても、モディ政権はラジャン総裁を再任したほうが良いと考える。これには以下の通り、合理的な理由がある。

改革イメージの後退は避けられない

第1に、ラジャン氏の退任は海外投資を呼び込もうとする政府の姿勢と相いれないことだ。モディ首相は就任以来、外国人投資家に“インディアンドリーム”を売り込んできた。取り組みは奏功し、資本流入に弾みがついた。最近も外国人持ち株比率100%の企業を認める政策を発表し、インドの市場開放を示すメッセージと受け取られた。ラジャン氏が退任すれば、こうした改革のイメージは薄れるだろう。

第2に、ラジャン氏の政策の妥当性が挙げられる。モディ政権はポピュリスト的な政策を採らずに厳しい決断を重ね、確かに堅実な財政運営を図ってきた。しかし、需要低迷については、緊縮財政を棚に上げてラジャン氏の慎重な金利引き下げが原因と主張した。

しかし需要低迷の背景には、金利のほかにさまざまな要因があるのだ。

インドでは大企業が過剰債務を抱えているほか、大銀行も膨大な不良債権を抱える。そうしたものが重荷となり、持続的な成長を阻害している。単なる金利引き下げで支えられるものではない。

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