国際的な資金の流れに変化
ここで注意すべきは、円安への反転は、国内要因より早い時点で生じていることだ。すなわち、12年2月の円安への反転は、日本銀行が2月14日に追加緩和を決めるより前から生じていた。このときの円安は、日銀緩和のためだと言われたが、そうではなかったのだ。また、最近の円安転換は、10月中旬に生じている(イタリア国債の利回り低下はそれ以前から生じている)。これらは、安倍内閣の政策表明よりずっと前のことだ。つまり、円安は海外要因で生じたのである。
なお、スペイン国債も同じ動きを示す。すなわち、3月まで急低下したあと、7月まで上昇。その後、再び低下している。イタリアとの違いは、現在の利回りが10年の水準よりまだ1%ポイントほど高いことだ(イタリアは10年の水準に戻っている)。
国際的な資金の流れが大きく変化していることは、直接に検証することができる。
国際収支統計におけるネットの対内証券投資を見ると、11年には21.4兆円という巨額の資金流入があった。10年の流入額が9.6兆円だったので、きわめて大きな変化が生じたことがわかる。これは、ユーロ危機で投資資金が南欧国債から逃避し、安全資産と見なされる日本国債に向かったことの結果だ(なお、投資資金は、日本だけでなく、ドイツ、アメリカにも流入した。この動きは、しばしば「リスクオフ」と呼ばれる)。月平均で言えば、1.8兆円の流入だ。
ところが、12年の1月には、流入が0.8兆円に減少し、さらに3月には、マイナス2・6兆円の流出になった。これは、ギリシャ支援策が2月に合意され、国債デフォルトが回避されたことの影響と考えられる。こうした資金の動きが、1月から3月にかけての円安を引き起こしたのだ。
しかし、この動きは継続することがなかった。4月からは再び資金流入が増加し、月額1兆~2兆円と、ほぼ11年並みの水準にまで回復した。これは、1月の決定にもかかわらずギリシャが財政削減などに難色を示したためだろう。
ところが、10月には、2.4兆円の流出に転換した。短期債だけをとって見ると、10月の流出額は3.6兆円と、非常に大きい。
変化のきっかけは、9月初めに欧州中央銀行が南欧国債の無制限購入を決定したことだ。これに続き、アメリカが金融緩和策QE3を決定し日本も追加金融緩和策をとった。
これにより、10月の半ば以降に円安が進行した。10月初めに78円程度であったドル/円レートが11月下旬にはすでに82円程度にまでなっている。安倍氏の「無制限金融緩和発言」がなされたのは、11月の末である。これ以前にすでにかなりの円安が進んでいたことになる。
もっとも、安倍政策が円安を加速させた可能性は否定できない。とくに、12月下旬から最近までの円安は、これによると考えられなくはない。ただ、大きな変化はそれ以前に生じていたことに注意が必要だ。
なお、11月の速報値では、対内投資の総額は約4・1兆円の流入超過になっている。ただし、アメリカなどは流出超過だ。
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