為替は日本の金融政策で自由に動かせない 円安は安倍バブルでなくユーロ危機一服が原因

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欧米の金融政策が 為替レートに影響する

以上で見たことは、「為替レートを日本の政策で自由に動かすことができるか?」という問題に関して、大変重要な意味を持っている。

為替レートは、「内外金利差」と「為替レートの予測(期待)」という二つの要因によって決まる。これらのうち、内外金利差については、日本の自由にならない。なぜなら、日本の金利ははすでにゼロ近くになってしまっているので、内外金利差は主として外国(とりわけ、アメリカ)の金融政策によって決まるからである。日本が金利を高めて円高を促すことはできるのだが、円安方向に動かす余裕はないのだ(なお、安倍内閣は大型補正予算編成により財政拡大政策を行おうとしている。これは日本の長期金利を高め、円高要因になる。この問題については、回を改めて論じたい)。

第2の要因である「予測」は、原理的には為替レートを動かす要因になる。しかし、前述のように、これまでの状況に関する限り、日本の政策変更の予測が顕著な影響を与えたとは考えられない。予測が影響するとしても、ユーロ問題の行方やアメリカの金融政策に関する予測の方がずっと大きな影響を与える。

仮に円安が日本の政策で引き起こされたものなら、政策の是非は別として、今後も円安に向けて経済を運営することができるだろう。しかし、為替の動向が主として海外要因で決まるのであれば、そうはできない。現在の日本で最も重要な経済変数である為替レートが、日本の自由にはならず、「あなたまかせ」「他力本願」の状態にあるわけだ。

では、将来はどうなるのだろうか? 最低限言えるのは、中長期的な円安トレンドに乗ったわけではないことだ。12年2月にも「円安トレンドへの転換」と言われたが、その時には早期に反転してしまった。今回も似たことが起きるだろう。

ユーロ問題がこのまま収束に向かうとは考えられない。特に、スペインで不良債権が今後膨張することは、十分ありうる。そうなれば、南欧国債からの資金流出と日本への流入が再開するだろう。アメリカは雇用状態が改善するまでQE3を続けると宣言している。だから、当面は金利が大幅に上昇することはないだろう。したがって、資金がアメリカに流出して円安になることはないだろう。

「為替レートを日本の金融政策で自由に動かせる」という思い込みからの脱却が必要だ。

(週刊東洋経済2013年1月26日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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