偏差値30台のヤンチャを甲子園児に育てる男 大人が高校生を指導する意味

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自ら練習メニューを考えさせ、ミーティングも選手たちの主導で行わせるように変えた。「大事なことは自分で決める習慣」を植え付けたかったからだ。当時のチームについて、「野球はやっているけど、勝負ができていない」と宮崎は感じていた。

たとえば、1点負けている8回裏の攻撃で、無死1塁の場面を迎えたとする。「勝負どころ」と感じた監督が盗塁のサインを出し、成功して無死2塁にチャンスが拡大された。打席の右打者はツーストライクに追い込まれた場合、最低限、右方向に流して走者を3塁へ進塁させることが求められる。対してサードゴロやショートゴロで走者が3塁に進めなかった場合、無死1塁から仕掛けたギャンブルの意味がなくなってしまう。

つまり、監督が盗塁のサインを出した意図を打者が理解し、逆方向への打撃で走者を3塁に進められて初めて、チームは「野球で勝負している」といえるのだ。その姿勢を教えるため、宮崎は「技術と戦術を分けて考えさせる」ことを重視している。

送りバントを封印した狙い

例を挙げると、打者は3ボール、ノーストライクの場面で、「1球待て」というセオリーがある。プレッシャーを感じたピッチャーの失敗=四球を待つためで、アマチュアばかりでなく、プロにも染みついているものだ。

その一方、3ボール、ノーストライクは最もヒットの出やすいカウントといわれる。投手は四球を嫌がり、ボールが甘くなるリスクを背負いながらストライクコースに投げてくるからだ。したがって、打者は打ちにいくべきなのである。

宮崎が言う。

「単純に考えたら、ノーストライク、3ボールから放るボールは、そのピッチャーが一番コントロールに自信のある球。そこでストレートを放るヤツは、一番ストレートに自信があるんだろうし。そこで変化球を放れるヤツはすごいけど、高校野球では少ない。そこで放る球が一番コントロールに自信のある球やから、確実にストライクを放るときはその球を放ると頭に入れておけば、次は真っすぐが来るのか、変化球が来るのかくらいはわかるわけです。そういうことを観察する目を持つことを含め、技術と戦術を分けて、野球を教えながら勝負を教えていかんといけない。指導者は、勝負と野球をごちゃ混ぜにして教えてはいけない」

高校野球で大切な作戦の1つに、送りバントがある。その確率を上げるためには、どうすればいいか。多くの監督は練習量を増やすだろうが、宮崎は冬場の練習試合であえて送りバントを封印する。

「無死1塁でバントを使わずにランナーを進めろといっても、めっちゃ難しいですよ。ランナー2塁なら右にゴロを打てばいいけど、1塁ではわざと詰まって打つくらいしか方法がない。何でそんな無理なことをやらせるかというと、いかにバントがありがたいかをわからせるため。簡単にランナーを進めるためには、バントはなんて簡単なことやと意識づけています。バントは難しいと思うから、失敗する。打って送るほうが難しい」

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