偏差値30台のヤンチャを甲子園児に育てる男 大人が高校生を指導する意味

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 宮崎の話には、「目からうろこ」の考え方が数多くある。その斬新な発想や作戦は、高校野球の指導雑誌によく紹介されているが、手の内を明かすことで、相手に研究されるのは本望だという。

「僕みたいにずぼらな人間は、自分を追い込まんと行動しない。自分自身にあぐらをかいちゃうと、成長がない。手の内を明かしちゃったら、次のことを新たに考えないといけない。相手に研究されるということは、勝負できているということでしょ? 野球が楽しいのではなく、野球を介して勝負できるのが楽しい。駆け引きというかね」

監督が誰より楽しみながら指導する姿を見て、選手は心から笑うために努力する。監督が誰より考えているから、選手も負けじと脳を働かせる。そうしてチーム一体となり、戦う集団ができていく。

今も後悔しているシーン

北大津のプレーで、語りぐさになっているものがある。2010年夏の甲子園3回戦で成田高校と対戦し、4対5でリードされた8回裏の場面だ。無死1、2塁から4番の小谷太郎が打席に向かう。3ボール、ノーストライクになった後の4球目で、2人の走者がスタートを切ったのだ。北大津では3ボールになったら走者がスタートを切るという決まりがあるが、甲子園のスタンドには「何で走るんだ?」とどよめきが起こった。

結局、4番打者は4、5球目と続けてファウルになり、6球目でサードゴロに倒れた。続く5番打者がレフト前にタイムリー安打を放って同点としたものの、9回表に1点を勝ち越されて敗れた。

このシーンを、宮崎は今も後悔しているという。

「ノースリーになったら走る、ということへの後悔はありません。何に後悔したかと言うと、大会を通じて3番と5番がすごく当たっとったんです。4番もホームランを1本打っとったんですけど、本来の調子ではなくて。だから4番の子がバッターボックスに入るとき、『4番にお前がどしっと座って、ピッチャーが4番のお前を警戒しすぎているから、3番が打ちやすい。お前の打席が終わってホッとしたところで5番は回ってくるから、打ちやすい。お前は4番としてすごく役割を果たしているぞ』と一声かけておいたら、状況は違っていた。そのことに気づかずに、4番をそのまま打席に行かせた自分がミスやったなと、すごく悔やんでいる。それくらい細かく、一人ひとりの心の奥底を見抜いて、いろんな雑談や声かけをつねにするのが監督の仕事だと思います」

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